第16章 削がれた爪
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「…で、なんであいつを殺さなかった」
爆豪が目を覚ますと、そこは薄暗いバーのような場所だった。
新しくはないが、清潔に保たれている。
こまめに掃除がされているのだろう。
カウンターの後ろの棚には、豊富な種類のワインが置いてあり、黒霧はグラスを丁寧に磨いている。
どうやらここを敵連合のアジトとしているらしく、皆、思い思いに寛いでいた。
雄英に襲撃を済ませたばかりの敵のアジトだとは思えないほどに、ゆったりとした空間だ。
死柄木の問いに、ツギハギ男は首を横に振った。
「無茶言うな、あんなのを殺せるかよ」
サングラスのガタイのいい男は、
「あの子の動き、慣れすぎてない?
私たちに気付くのも早かったわ、
何者なのよ……」
とぼやいている。
──誰のことだ?
爆豪は首を捻る。
恐らく、雄英生徒の誰かを指しているのだろう。
短期間にいくつも襲撃をやってのけるほど、忙しくしているとは思えない。
「は?せっかく、対あいつ用の脳無を造ったって言うのに…」
苛立たしそうに死柄木は返すが、あれは仕方ないさ、とのマジシャンの言葉に渋々引き下がった。
納得しているようにも見えないけれど。
「まぁあいつの事はいいだろ。
それよりマスキュラーやムーンフィッシュだ、あいつらが捕まったのは痛手だな」
と、やはりツギハギ男。
「マスキュラーは多分緑の地味君でしょ」
「ムーンフィッシュは黒い奴だったな。
影のようなものを纏ってた」
サングラスと仮面が頷く。
──デクと、鳥野郎か。
爆豪は、妙に冷静だった。
しかしそれとは対照的に、なぜか死柄木は苛立っている。
首をガリガリと掻き毟り、癇癪を起こしている。
「やっぱイライラするな…
っくそ、緑谷出久は元々ムカつく奴だったが…
ああもう、やっぱり依田終綴が1番だ、なんであいつらは…!!!」
──は?
──舐めプ女?