第3章 暗い場所の輝き
リカバリーガールに少し治癒を施してもらい、治った手の平を見つめながら教室に入ると、視線が集まるのが判った。
推薦組を抜かして1位だった終綴のことが、気になって仕方ないらしい。
そんな中、飯田は正直に(?)こちらにツカツカ歩み寄ってきた。
「依田くん!
怪我は大丈夫なのか!?」
「大丈夫!軽傷だったから!」
「そうか!それなら良かった」
安心したように笑い、それから、でも、と飯田は続けた。
聞きたいことがあるらしい。
「緑谷くんもだが…君たち2人は、本当に不思議だな。
どうして、自分の個性で怪我をするんだ?」
──そりゃ、私の個性じゃないもん。
──いや、私のだけど。
矛盾したことを心の中で返事しながら、終綴は首を傾げた。
「なんでだろうね!?」
──爆豪くん、多分皮膚厚いんだろうなぁ…
「なっ…自分のことなのに判らないのか!?
本当に不思議だな…」
「そうかな?普通だよ、私は」
家族と比べると、という言葉を飲み込む。
あの面子と比べると、自分はマトモな部類に入るし、無敵にもなれない。
彼────恋人には、一生勝てる気がしないのだから。
「普通か…なら依田くん、君は普段はどんなトレーニングをしているんだ?」
「普通に筋トレ…?
重石つけてキックボクシングするだけ!」
──最近はしてないけど。
サボってるのがバレたら、恐らく恋人に睨まれるだろう。
家族からも笑われるだろう。
いや、家族のうち数人は知っているが。
けれど、────これは言い訳になってしまうが────家族と離れて、その寂しさに慣れるので精一杯なのだ。
というか、"サンドバッグ"は実家にある。
一人暮らしなのにそんなものを持ってくることはできなかったし、何よりリスクが高すぎた。
それもあってか、終綴には当分、トレーニングなどするつもりはなかった。
「重石はどこに付けているのだ?
場所は!?ジムなのか、それとも自宅にできる設備でもあるのか!?
今後の参考にしたい、差し支えなければ教えてくれないか!?」
──必死だなあ。
クラス順位5位では満足できなかったのか、精進するべく訊いてくるあたりが彼らしいというかなんと言うか。
クラスの視線を気にしながら、終綴はにっこり笑った。
「帰りながら話そ?」