第16章 削がれた爪
「最近?まだおまえらは…」
青年は苛立つように眉を寄せた。
「仕方ないでしょ。
借りてるんだから、ギブアンドテイクだよ」
「わざわざあいつから借りなくても、」
「私が殺されるとでも思ってるの?」
「…思わない。そもそも、おまえが弱いなら雄英になど行かせてない」
「ならいいでしょ」
久々に顔を合わせたはずなのに、言い争いが始まりそうになる2人。
それに、家族たちは慌て始める。
この2人が喧嘩を始めると、必ず誰かが死ぬ、もしくは大怪我をする。
彼らは個性を使用しての喧嘩をするため、危険極まりないのである。
「ま、まあまあ!落ち着いて…」
「煩い、こいつはまだ何もわかってない」
「ほ、ほら!終綴も久々に帰ってきましたし!」
「いつも私にこんな事ばっか言って、それなのに…!」
「終綴も落ち着けって!」
「……いつもこうなのか?」
ぎゃいぎゃい、と騒がしくなる。
そして、ぴたりと止んだ。
「…会いたかった」
「ああ…俺もだ」
周囲からはどっと力が抜ける。
どうやら先程のはじゃれあいだったらしい。
その割には2人とも、目が鋭かったけれど。
そして、2人はソファに腰掛ける。
青年は、終綴を後ろから抱き締めるような形で。
やれやれ、と。
家族たちは呆れたように、しかし嬉しそうに2人を眺めた。
終綴もまた嬉しそうにして口を開く。
「ヘドロ事件のときの奴がさ、今敵連合に誘拐されてるんだけど。
…今から、クラスメイトたちが何人かでそれを奪還しに行く」
「…馬鹿でしょう」
「敵のアジトに乗り込む…勝算はあるのか?」
「死ぬだろそいつら」
起こるのは、呆れと嘲笑。
終綴はそれに何も返さず、テレビをつけた。
「それと、今からお兄ちゃんたちが会見を始める。………一緒に観よう」