第16章 削がれた爪
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帰宅し、久々の「普段着」に着替える。
やっぱりこの服が1番落ち着くな、と終綴は幸せそうな顔になった。
鞄の中から宝物を取り出し、身につける。
そして、それからスマホを取り出した。
チャットルームを開く。
『ニュース見てるよ。大丈夫?』
そんな言葉を誰かに送る。
数分して、『心配するな。夜、会見を開く』という返信があった。
───…切島たちが行くのと時間が被るかもしれない。
「…………」
ふわり
久々の実家に、終綴は顔を綻ばせた。
やはり、自分の居場所は此処なのだと。
普段なら通る地下道も通らず、真っ直ぐに終綴が向かったのは家で1番大きなダイニングだった。
「ただいま、みんな!」
家族皆で寛げる場所。
終綴が提案し、設けた空間だ。
当初こそ皆寄り付かなかったものの、今ではここに来ると必ず誰かがいる。
嬉しくないわけがない。
そして、
「おかえり」
「久しぶりですね」
「はじめまして、終綴様」
「雄英はどうよ?」
この日はほぼ全員が揃っていた。
それどころか、自分の知らないメンバーまでいる。
新しく家族が増えたことを知らなかったため、終綴は僅かに驚いた。
「ようこそ。
聞いてると思うけど、私は依田終綴。よろしくね。
もう家族なんだし、敬語は要らないよ」
そう言って握手を求める。
家族が増えたことは、純粋に嬉しいようだ。
そして、扉の方に顔を向けた。
「……で?うち、そんなに裕福じゃないと思うんだけど」
遅れて部屋に入ってきた、愛しい彼に問掛ける。
彼は終綴の恋人であるより先に、この家の家主なのだ。
何故入れたと訊ねると、ああ、と青年は頷いた。終綴の質問は予想していたのだろう。
「こいつは、"お守り"の為に入れた」
「……あぁ、なるほど」
最近しつこさ増してるもんね、と終綴は苦笑した。