第16章 削がれた爪
漸く、緑谷の焦点がこちらに合った。
しかしやはり、口調には力がまだ戻っていない。
飯田が静かに首を振る。
「いや…耳郎くん葉隠くんは敵のガスによって未だ意識が戻っていない
そして八百万くんも頭をひどくやられここに入院している
昨日丁度意識が戻ったそうだ、だから来ているのはその3人を除いた……」
「16人、だよ」
「爆豪、いねえからな」
「ちょっ轟….」
地雷を躊躇なく踏み抜いた轟を、芦戸が窘める。
周囲でも、轟の言葉でわかりやすく空気が澱んだ。
「………」
ぼんやり、どこかを緑谷は見つめた。
何かを思い出しているようだ。
「オールマイトがさ…言ってたんだ、手の届かない場所には救けに行けないって
だから手の届く範囲は必ず救け出すんだ…
僕は、手の届く場所にいた
必ず救けなきゃいけなかった…!
僕の個性はその為のものなんだ…
相澤先生の言った通りになった」
───────おまえのは1人救けて木偶の坊になるだけ
「体…動かなかった」
悔しそうに、緑谷の顔が歪む。
その瞳は、水滴できらきらと輝いていた。
「じゃあ今度は救けよう」
切島の言葉に、皆がへ!?と驚く。
轟が驚いていないことに、終綴は気付いた。
「実は俺と轟さ、昨日も来ててよォ
そこでオールマイトと警察が八百万と話してるとこ遭遇したんだ」
切島によると、八百万は敵が去る直前、B組の泡瀬に頼んで発信機を体に付けてもらったらしい。
泡瀬の個性ならば、離れる心配はない。
そして、警察とオールマイトに、その受信機を渡しているのを見たのだと。
「つまりその、受信デバイスを俺たち用にも創ってもらう…と?」
飯田が声を絞り出した。
切島と轟は、自分たちが何を提案したのかわかっているのだろう。
さっと、目を逸らした。
しかし、それは肯定したも同然。