第16章 削がれた爪
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「…あんな事言われてもさ、やっぱ…ヒーローには、なりたいよ俺は」
尾白はそう呟いた。
雄英に入ってから、普通の高校生では経験し得ない事をたくさん経験した。
恐ろしい思いもしたし、死ぬかもしれないなんて思ったこともある。
でも、その度、プロヒーローの戦いを間近で見て。かっこいいなと、彼らのようになりたいなと、そう思った。
ああ、とほかの皆も頷く。
「怖くないって言ったら嘘になるけど…ヒーローに、なりたい」
そうだな。
なんて、誰か返す。
それは、クラス全員がそう思っているに違いない────少なくともその時は、皆がそう思った。
「あー緑谷!!目ェ覚めてんじゃん」
気遣ったのか、上鳴は病室に着いた途端、明るく振舞った。
意外と気配りできるんだな、と終綴は失礼なことを思う。
「え?」
驚いたように、モサモサ頭がこちらを向いた。
両腕にギプス、頭部には包帯、右頬にはガーゼ。
そんな痛々しい姿が、クラスメイトの心を抉る。
爆豪が攫われたとき、緑谷がその目の前にいたのは誰もが知っている。
そして、緑谷の「救けたい」という気持ちが、誰より強いことも。
だからこそ、それが痛々しくてならない。
病院着が、筋肉質なはずの彼の体を心なしか細く見せていた。
何人かが、見ていられなかったのか、彼から目を逸らした。
「…テレビ見たか!?学校いまマスコミやべーぞ」
「春の時の比じゃねー」
上鳴と砂藤の言葉に、しかし緑谷は虚空を見つめるだけ。
「メロンあるぞ、皆で買ったんだ!」
メロンを掲げる峰田。
しかしカットしているわけではないので、直ぐには食べられない。
「迷惑かけたな緑谷…」
申し訳なさそうな常闇。
「ううん、僕の方こそ…
A組みんなで来てくれたの?」