第16章 削がれた爪
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「おはよう!」
皆が集まってきたのを見て、終綴もその輪の中に入った。
「依田くんは時間ピッタリだな…」
俺も見習わらねば、と飯田は呟く。
ははは、と終綴は苦笑い。
───別に、時計は気にしてないんだけど。
誰かにつけられるのを防ぐため、1時間以上前から近くの物陰に身を潜めていた。
万一クラスに敵連合との内通者がいた場合にも、何か仕掛けられるのを防ぐためでもある。
───爆弾くらいなら、私一人で処理できるし。
だから、時間に正確というよりは、遅刻しないという点で見習うというならわかるのだけれど。
───ま、どっちにしろ、私のことをその程度の認識でいるのなら都合いいことに変わりはないよ。
「…デクくんたち、大丈夫、かな…」
麗日はここに到着する前からずっと暗い表情をしている。
「…………」
「…………」
どうしてか、切島と轟までも同じような顔をしている。
切島は爆豪と、轟は緑谷と親しいし、やはり心配なのだろうか。
緑谷は見た限りだと命に別状はなさそうだったが。たったそれだけで片付けられる問題ではないらしい。
───ま、そりゃそうか。
───私だって、家族が傷つけられでもしたら、やっぱり心配だし……いや、復讐に走るかも。
終綴は不穏な事を考えるが、クラスメイトたちがそれを知る由もない。
「ほ、ほら!
これから見舞い行くんだろ!
今から辛気くせぇ顔すんなって!
ほら、行こうぜ!!」
上鳴は明るく努めている。
それが空元気だとわかったが、皆、彼の優しさに乗じた。
「そ、そうだな!」
「見舞い品どうする?」
「やっぱメロンだろ!」
ワイワイと、わざとらしく騒ぎながら駅前のスーパーに寄る。
10人を超える数で入ったからやはり目立つのか、買い物途中のおばさま方からの視線が集中した。
そして、輪の端でのんびり歩いていた終綴は、ねぇ、と初老の女性に声をかけられた。
「あなたたち…雄英の子よね?」