第15章 夜明けの前兆
──え?
なぜそれを。
終綴の表情が固まった。
自分の個性が知られているのは仕方ない。
USJ事件において、かなり見せてしまったからだ。
荼毘はUSJの場にいなかったはずだが、大方、死柄木からでも聞いたのだろう。
だが、なぜ名前まで知っているのだ?
知っているのは、今はもう家族だけの筈────
学校には、"レンタル"だと伝えてある。
小さく重ねた、大きな嘘。
それが見破られたとでも言うのか?
この男に?それとも死柄木に?
「安心しろ、死柄木には言ってない。
俺が個人的に知ってるだけだ────お前は、今も昔も、有名人だからな」
──"今"も"昔"も?
男の口ぶりは、体育祭で自分を知ったのではないと告げている。
そんな含みをもった、「今も」。
こちらの気も知らないで、体育祭見てびっくりしたよ、と続けている。
そもそも「昔」を知られている時点で拙すぎるのだが──────
「俺としては、お前が連合に加われば敵無しだと思うんだが…死柄木が許してくれそうになくてな」
「…………」
「なあ終綴」
下の名前で呼び捨てにされた事にさえも、頭は回らない。
「お前ら、じゃなく、俺はお前と一緒に行きたい…
手を組まないか」
確信。
自分の家族についても、知られていると。
この男は、どこまで知っているのか?
自分の個性を知っていた。
昔の自分も知っている。
どうやら今の自分も知っているらしい。
気付いているらしい。
──殺さなければ。
今周囲に知られるのは拙いのだ。
終綴は冷静だった。
ここでスタンガンを使ったら目立つかもしれないとスイッチを切った。
そしてそのまま荼毘を殺さんと駆け出し、
彼から奪った個性を繰り出す。
ゴオォォ
燃えたかと思うが、荼毘の前に、見覚えのある巨体が立ち塞がっていた。
「っ…脳無!」
保須やUSJで見たものと少し違い、その脳無はおぞましい武器を携えていた。
ち、と舌打ちをし、次はその武器目掛けて炎を放つ。
高温にあてられた金属は、急速に液体へと変わる。
デロ、と地面に零れた。
その様子を見て驚く2人を他所に、終綴は脳無の目に思い切り蹴りを叩き込んだ。
力が入りすぎたのか、グキ、と首の骨が嫌な音をたてた。