第15章 夜明けの前兆
***
三日目の訓練も無事に終わり、夕食。
今日は肉じゃがを作るらしい。
カレーと殆ど材料同じじゃん、と瀬呂は愚痴っている。
「いいじゃないか!野菜が豊富にとれて栄養満点だ!」
「肉じゃが…私、食べたことありませんの」
「ヤオモモまじか!?」
「ええ…家では洋食ばかりで…」
「すげー、お嬢様すげー」
ワイワイと元気に騒いでいるクラスメイトから少し離れた場所で、終綴はひょっこり緑谷の顔を覗き込んだ。
「オールマイトに何かあるの?」
「へ?オールマイト?」
なんの事かと緑谷はきょとんとしている。
「うん。お兄ちゃんに聞いてたじゃん」
ああその事か、と緑谷は寂しそうな顔をした。
「個性ありきの超人社会そのものを嫌ってる子がいて…僕は、その子の為になることを何一つ言えなくてさ、オールマイトなら何て言っただろうなって…」
そっか、と終綴は頷く。
誰のことを指すのかはわからないが、共感に近いものを感じた。
───緑谷も…同じ経験を、したことがあるのかな。
───爆豪も、入学当初は緑谷を「無個性」って言ってたし…関係あるのかも。
「依田さんなら、何て言う?」
急に振られて、驚く。
───場合による、けど。
「…………私は、何も言えない…かな」
「どうして?」
「そういうのって、言葉だけじゃないでしょ。
何をしてる人間に言われるか、が重要だと思うから…何もしてない私がその子に言ったところで、その子の意識が変えられるとは思えない」
心にもないことを言う。
本当なら、何か言うだろう。
行動に移すよう、唆すかもしれない。
仲間に、引き込むかもしれない。
───私が何か言うと、敵になってしまうかもしれない。
───違う。私たちは敵じゃない。
───敵はヒーローだ。
───でも、社会では…
───違う。違う。違うのに。
頭の中で、急に言い合いが始まった。
「依田さん?大丈夫?」
心配そうな緑谷の顔が視界に現れる。
純粋で真面目で真っ直ぐで、ヒーローになる事しか考えていないような彼を見て、少しだけ落ち着いた。
───…………。
───少なくとも。
───私は、みんなの仲間じゃない。
「うん、大丈夫。
…肝試し、楽しみだね」