第15章 夜明けの前兆
「そういえば相澤先生…もう三日目ですが」
訓練が体にきているのか、よろけながら緑谷は首を傾げる。
「今回オールマイト…あ、いや、ほかの先生方って来ないんですか?」
───ケッ、クソデクはまたオールマイトかよ…
人のことなど言えないくらいには自分も好きなはずなのに、棚に上げて爆豪は内心で毒づいた。
「オールマイトは敵側の目的の1つと推測されている以上、来てもらうわけにはいかん。
人員は必要最低限にしているから、ほかの先生方も同様だ」
淡々と答える相澤。
そっか、と残念そうに俯く緑谷だったが、そのモサモサ頭の後ろから覗く視線に爆豪は舌打ちをする。
───だから、こいつは何考えて…
終綴は、じっと緑谷を見ていた。
否、見ていたのは相澤だろうか。
実の兄妹という話だったけれど、彼女が兄を大切にしているようには思えない。
いつから見ていたのだろうか。
まさかオールマイトという名前に反応して、という考えが浮かんだが、さすがにないかと否定する。
あの距離で彼らの会話が聞こえる耳をしているのだとしたら、それは化け物だ。
否、それは言い過ぎだろうけれど。
───そういや、耳のいい鳥もいたな…梟だっけか…いや、鳥は皆耳がいいんだったか…?
分からない点が多すぎることが苛立ちへと変わり、そしてそれを忘れようと他のことを考えて気を紛らわす爆豪。
しかしやはり視線は気になってしまう。
───あいつは本当にヒーローになりたいのか?
個性把握テストの時から彼女の潜在能力は分かっているし、USJや体育祭を始め、授業での鋭い考察や観察眼、そして高い身体能力など、様々な面において彼女は「強い」。
コピーのような個性だから、オールマイトのような派手さはないけれど、それでも彼女の実力は折り紙付きだ。
教師陣が特別視するのもわかる。
だが時折見せる彼女の鋭い視線に、爆豪は違和感を覚えるのだ。
自分が言えた口ではないのはわかるが、彼女は強い者にしか興味を示さない。
成績上位者にのみ注目し、強個性の生徒を狙うような目で見ている。
ヒーロー志望が、あんな目で他者を見ることがあるだろうか?
羨むならともかく。
だが、羨むにしても、彼女の個性であれば他の者の個性だって使用できる。
その割に、終綴は「個性を使わない」。
───何を、考えてる?