第15章 夜明けの前兆
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「補習組、動き止まってるぞ」
相澤が檄を飛ばす。
「オッス…!!」
切島は体にむち打ち、
「すいませんちょっと眠くて….」
「昨日の補習が…」
しかし他の補習組はぐったりしている。
かなり遅くまで机と向き合っていたらしい。
そういえば戻ってきたのも遅かったっけ、と終綴は思った────峰田が来ていた時間はもっと遅かったけれど。
しかし、峰田は寝不足を感じさせない程度には個性伸ばしに集中していた。
血涙を流しながらも、頭に生えた"カタマリ"をもぎ取り続けている。
痛そうと思いつつ視線を緑谷の元に戻す。
昨日と変わらず、彼は虎と奮闘している。
妙なポーズをとり拳を振りぶつけられ、体力の消耗は誰より激しそうだ。
───虎はどのくらい戦えるのかな…
僅かに興味が首をもたげ、こっそりと虎の背後を取った。
そして、
ヒュンッ
左手を刀代わりに、虎の首に掠らせる。
「「「!?」」」
緑谷含め、その場の全員がギョッとした。
その勢いにか、それとも終綴の身勝手な行動にか。
しかし、終綴はへらへらと笑う。
「私の相手も、してください」
「我に気取られず背後を取るか…面白い」
───久々の実戦だ。
手加減は忘れずに、と再確認してから虎の足元を狙う。
足払いをし、避けようと宙に浮いたのを確認し握った拳を顎にかます。
避けようとした虎の体勢が崩れた。
それもそのはず、彼は今足を地につけていないのだから。
そのまま後ろに倒れ込みそうになる。
しかしやはりプロ、グンとさらに腰を曲げてバク転し難を逃れる。
───さすがにこんなに簡単にはやられてくれないか。
プロヒーローと一戦を交えた経験はあまりない。貴重な時間だ。
さて次は、と思考を巡らせていると───
ギチギチ
体が包帯のような布で縛られた。
「うわ!?」
「終綴…暇ならメニュー増やすか?」
振り返ると、鋭い眼光が覗いていた。
「お兄ちゃんが相手してくれるの?それなら喜ん──」
「そうかよくわかった。暇なんだな。なら」
「わっごめんなさいー!!わかった、ちゃんとやる!!ちゃんとやるから!!!ね!??」
お前はこっちだ、と終綴は引き摺られていく。
助けてぇぇ、との嘆きには、皆目を瞑って逸らすことしかできなかった。