第15章 夜明けの前兆
「峰田が私を怖がるのもわかるけどさ。
私が敵!?そんなわけないじゃん!
さすがに傷ついちゃうな…」
クラスメイトにそんな風に思われてたなんて。
そう言って声を震わせると、峰田はぐっと息を詰まらせた。
こんな時、この容姿で生まれてきてよかったと心の底から思える。
「前に言ったでしょ、相澤先生は私のお兄ちゃんなの。助けたいと思うのは本当だし…
木椰区は本当に、その時にしなくちゃいけないことがあったの」
「じゃ、じゃあ、」
「敵なんかじゃないよ。
運動は元々得意だし、昔に痴漢撃退法を齧ってたからね。急所を狙うのは癖になってるのかも」
「そう…か、」
良かった、と峰田は納得してくれたようだ。
この様子だと、自分の推測は誰にも話していないみたいだし、こちらとしても都合がいい。
上手く丸め込まれた峰田は、そのまま素直に男子部屋へと帰って行った。
起床時間まで時間もあるし、もう一眠りするということなのだろう。
完全にクラスメイトが見えなくなってから、依田は手洗いへと駆け込む。
ドキドキ、と心臓が嫌な音をたてていた。
「勘弁してよね…」
個室に鍵をかけ、ズルズルとしゃがみ込む。
まさか、あの峰田に突かれるとは思ってなかった。
今はクラスメイトたちとの距離が近いことで信頼されている、だから疑いも払拭できた訳だけれど。
数時間前に感じた、明確な悪意を思い出す。
───クラスメイトの相手なんか、してる暇ないんだけど。