第15章 夜明けの前兆
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手洗いに行こうと部屋を出ると、廊下に紫色の物体が倒れていた。
葡萄のようなそれは、どう見ても間違いなくクラスメイトだ。
男子部屋は反対側にある。
なぜここに、と思うが、考えるまでもない事だった。
「夜這い?いい趣味してるじゃん」
そういえば木椰区に買い物へ行った時、覗き見がどうとか夜這いがどうとか言ってたっけ。
顔をのぞき込むまでもない。
うつ伏せになって倒れているが、気を失っているのではない。
倒れている振りをしているだけだろう。
証拠に、わざと足音をたてて近づくと、ぴくりと小さく体が揺れた。
「ねぇ…」
耳にそっと唇を寄せる。
「春に私にされた事、覚えてないの?
それとも、続き、して欲しい?」
故意的に、声から温度を捨てた。
怯えたのか、びくっと体を震わせ、峰田は起き上がった。
「っ…」
「なーんて冗談だけど、さ?早く寝なよ、疲れてるから行き倒れてたんでしょ?」
ぱっと手を広げにこにこする。
行き倒れてたという事にしてあげよう、と珍しく良心が働いた。
すると、なぁ、と小さく問われる。
「1つ…いいか」
声が震えている。
「うん。何?」
拳を握りしめているし、よほど聞き辛い事なのかもしれない。
これでくだらない質問だったら殴る、と終綴はひっそり決めた。
しかし、紡がれた質問は、寧ろ終綴が殴られた気分になるようなものだった。
「依田、おまえ、何もんだ…?」
「何者って?私は、私だよ」
「おまえさ…おかしいよ…頭いいのは知ってるし、運動神経も抜群に良いのはわかる、けどよぉ、USJといい実技授業といい、…おまえ、何か変だぞ!!?」