第15章 夜明けの前兆
愛用のスタンガンに手を忍ばせ、飛び退きながら振り向くと──────────、
「…何やってんだおまえ」
そこにいたのは相澤だった。
なんだ、と張り詰めた糸が弛緩し、緊張が解ける。
「びっ…くりしたぁ………」
──殺しちゃうかと思った。
電話の向こうも、安心したように息を吐いている。
緊張は、向こうにも伝わっていたらしい。
「?
電話してたのか」
「あー、うん…ちょっとね」
──家族と、とか、口が裂けても言えない。
妹が日頃世話になっているのだと知ればこの兄は必ず挨拶したがるだろうから、それだけは避けなければ。
へらへら笑って誤魔化すと、じっと見つめてきた。
こちらを見透かすような、そんな目で。
プロヒーローの目だった。
「どうしたのお兄ちゃん、もしかして私に惚れちゃった!?!?
だめだよ、それは近親そっ」
──ま、それはないか。
捕縛武器で終綴の口を塞ぎながら、相澤は心の中で呟いた。
相変わらず、終綴はへらへら笑っている。
自分と、血の繋がった妹のはずだ。
別れていた時間が長いからだろうか。
肉親のはずなのに、考えていることが、全く判らない。
このへらへらした笑みも、相手に考えを悟られないように浮かべているものではないかと、時折思うことがある。
でも、終綴の発言を考えるとそれは違いそうだ。
「馬鹿なことを言うな、おまえが妹だと思うと頭が痛くなる…………」
あまりに無駄のない動きや、USJのときに見せた悪意を煮詰めたような瞳。
あれは気のせいだったのだろう。
自分が窮地に陥っていたから、そう見えただけなのだ。
きっとそうだ。
「っぷは、お兄ちゃんって口塞ぐの好きだよね、まさかそういうプレ」
「本当に黙れ……」
拘束を緩めるとすぐに戯れ言ばかり吐く。
やれやれだ、と相澤は諦めて宿舎に戻っていった。
お前も早く戻れよ、との一言を忘れずに。
警戒するような目で見られていることに、相澤は最後まで気が付かなかった。
冷たく鋭く、それはまるで刺し殺すようで。
──何かあれば、すぐにでも。
終綴の考えを、知る者は────────