第15章 夜明けの前兆
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トトトトト
軽快なリズムで、食材が刻まれていく。
切られているものは全て均等且つ食べやすい大きさになっており、クラスメイトたちは感嘆の息を漏らした。
「すげぇ…依田って、料理もできるんだな」
「手慣れてんなぁ〜」
「依田ちゃん、普段料理自分でする言うてたわ」
「そういや、いつも弁当だもんな昼」
「戦闘能力もコミュ力も高くて料理もできんのか…才能マンかよ」
「才能マンと言えば爆豪もじゃね?
ほら」
上鳴が指さした先には、人参をこれまた軽快な手裁きで切っている爆豪の姿があった。
終綴に負けずとも劣らず、といった具合である。
敵のように目付きが吊り上がっているため、凶悪な印象を受けてしまうのだが。
「すごいんやなぁ終綴ちゃん!何でもできるん、ほんとすごいわぁ」
麗日が気さくに話しかけると、終綴は曖昧に笑った。
いつものようなハイテンションがどこにもなく、不思議にも思ったが、疲れているのだろうと勝手に結論づける。
一方終綴は、神経をすり減らしていた。
家族以外の者と、「仲間として」過ごすことは初めてではない。
だが、寝食共にというのはあまり経験がないし、それに何より、クラスメイトたちからの純粋な尊敬の眼差し。
それが、終綴の心にグサリと響く。
ちらりと脳裏を掠めるのは、USJ事件のこと。
あの時、自分の行動は本当にあれでよかったのだろうか。
兄を守らんと動いたことに後悔はない。
イレイザーヘッドに死なれたら困る、それは今でも変わらない。
しかし、「依田終綴の実力」はこれでいいのだろうか。もう少し弱くても良かった?
それとも、敵を完封しても問題なかった?
他に、守るべき存在はいたか?
ここにいるとき、自分は何を守ればいいのだろうか。
1番大切な家族は、ここにいない。
ここでは自分は「ヒーローの卵」なのだ。
ヒーローになるためにこの学校に入ったのだし、それは、正しいのだけれど。
───でも、私にとってのヒーローは、
彼を想う。
ヒーローって、何を守るべきなんだろう。