第15章 夜明けの前兆
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クラスメイトたちはゆっくりしていたが、したい事があるからと終綴は10分ほどで温泉から抜け出した。
急いでジャージに着替え、こっそりと宿から出る。
見回りだろうか。
おそらくブラドキングだろう、体格のいい男がこちらに向かってくるのが見えた。
気配を殺してさっと距離を取った。
そしてそのまま、ぐるりとあたりを歩く。
───今日はここらへん散策、明日は宿周辺かな。
───本当は全部一気にしちゃいたいけど、あまり長く部屋に戻らないと怪しまれるし…
集団生活というのは本当に面倒臭いな、とひとりごちる。
職を同じにする者ならともかく、ただの素人、ただの学生、ヒーローの卵。
安心も油断も、できるはずがなかった。
「これだけして帰ろう」
宿から死角になっている場所に座り、愛用のスタンガンを取り出した。
職業体験の際に脳無と遭遇し、小型化しようと改良を重ねたものだ。
今では、掌に収まる可愛いサイズとなっている。
可愛くないのは、その威力だけ。
自作のため、使用には僅かに不安があった。
だが、試すにも住宅街で撃つわけにはいかないし、自宅に帰るわけにもいかない。
自分で試そうかと思ったこともあったが、終綴とて人間、痛いのは嫌いだ。
だから今まで試していないままだったのだが、ここなら大丈夫だ。
木の1本くらい焼いてしまっても、問題ないだろう。
もう一度宿の方を見て、誰もいないことを確かめる。
バチバチッ
発射と同時に光が走り、それから木が黒焦げになった。
黒の物体はそこから崩れ落ち、灰へと化す。
はぁ、と溜息が漏れた。
───やっぱり自分で作ると威力が落ちるな。
───プロに頼むのは癪だけど…
納得しないままポケットに仕舞い込む。
さてと。
「急いで部屋に戻らなくちゃ」