第15章 夜明けの前兆
いただきますと皆が手を合わせる中、終綴は沈黙していた。
お腹が減っていないわけではない。
朝から何も食べていない為に空腹は感じている。
慣れているから、最悪、合宿では何も食べずとも生きていけるのだが────それでは、違和感が出てしまうだろう。
普段から少食なら問題ないが、自分の場合、いつも昼には弁当を持っていき、必ず完食している。
少食ですお腹空いてません、で通るはずもない。
───他人の作った料理…
じわりと嫌な汗が滲む。
嫌な思い出が蘇ってしまう。
何か、
体に悪い成分は入っていないだろうか
という不安。
昔、他人の料理を口にして、動けなくなったことがある。
そのせいで、家族には迷惑をかけた。
まだ幼いからと許してはもらえたものの、自分自身では許せていなかった。
あんな事で家族の手間を取らせるなんて、と。
その件以降、他人の作るものは口にしなくなったし(家族は別だが)、自分で料理の練習をするようにもなった。
上達は早かった。
彼の場合顔にはあまり出なかったが、家族たちはみな喜んでくれて、それが何より嬉しかったものだ。
雄英に入ると決まった時も、既に終綴の一人暮らしは確定していたから、「終綴の飯が食べれなくなるのか」と惜しまれたのは、今となってはいい思い出だ────そんなに月日は経っていないけれど。
しかし、だ。
そんな思い出は置いておくにしても、今ここで食べないわけにはいかない。
考えた末、終綴は緑谷の方に掌を向け、それを握ろうとする。
そしてやめた。
───大丈夫、壊れそう。本物だ。
個性を変な方向に使ってしまった気もするが、減るものでもない。
彼が本物であることを確かめてから、決意を固めた。
仮にここで自分が襲撃されたとしても、周りには「味方」が大勢いる。
敵は「敵」でしかない。
大丈夫、と言い聞かせてから緑谷に声をかけた。
「ごめん緑谷、遠いからこれに炒飯お願いできる?」
クラスメイトによそってもらうという方法なら、自分だけをターゲットにすることはできない。
勿論標的がこの集団全体だった場合はどうしようもないのだが、その時は自分が本気になるしかない。
大抵の敵は撃退できるのだから。
言い聞かせながら、終綴は食べ始めた。
あとで散歩に行かなきゃ、そんな事を思って。