第2章 はじめまして
──このままだと、緑谷は最下位。
当然、緑谷本人もそれを危惧しているようで、腕に力が篭るのがわかったが──ポトリ。
すぐ近距離で、ボールは落下した。
緑谷の顔が絶望に染まるのが見て取れる。
──かわいそうに。
終綴は同情するが、しかしそれでも何かしようと行動には移さない。
「な…今確かに使おうって…」
「個性を消した」
相澤が髪を掻きながら怠そうに言う。
──おお。これが。
終綴は歓喜した。
自分の兄がどんなヒーローをしているのか、どんな個性的なのか。
それは調べて知っているし、兄についてだけはヒーローオタクでない自分でも周囲よりはずっと詳しい自信がある。
しかし直接目で見るのは初めてで、だからこそ、嬉しい。
──個性つかうと髪が上がるのは本当なんだ。
ちらりと物陰を盗み見る。
終綴は、クラスで唯一、オールマイトの存在に気付いていた。
家柄なのか、それとも生まれつきか、はたまた育った環境が原因か。
終綴は、人からの視線には人一倍敏感だ。
だからこそ、その煩い視線に気付いていたのだが──
「見たとこ…個性を制御できないんだろ?また行動不能になって誰かに助けてもらうつもりだったか?」
髪は上がったまま、厳しい言葉を相澤はかけ続ける。
周囲の生徒たちが固唾を飲んでその様子を見守る中、終綴だけはワクワクとしていた。
「彼が心配?僕はね…全っ然」
「指導を受けていたようだが」
「除籍宣告だろ」
などさまざまな声が上がる。
少なくとも除籍は自分ではなさそうだと安心する者、緑谷の行く末を心配そうに見守る者。
しかしやはり終綴は楽しそうにその様子──否、相澤を見ていた。
視界の隅に映る、オールマイトを意識しながら。
「ああいうのが好きなのー?」
ピンク色の女子がからかってくるが、終綴は気にも介さない。
しかし、思うところがあったのか、ピンク少女に笑いかけた。
「好きっていうより、興味がある…が、正しいかな」
──好きな人は、別にいるし。
何が違うの!?
不思議そうに、そして楽しそうにそのピンクは叫ぶ。
終綴の視界では、そのピンクの後ろ側で爆豪と緑谷それと担任がごちゃごちゃ話していることが気になった。
内容が聞こえない、それが少し残念だった。