第2章 はじめまして
──もういいや。
2度も個性を使ってしまった終綴は、少し面倒になってきた。
手のひらは依然として痛いままだが、あまり個性をひけらかすような真似はしたくない。
というより、自分の個性がどのようなものであるかを、今のうちはまだ、隠しておきたかった。
──戦闘訓練まで隠しとくってのが目標…かなぁ。
反復横跳びの順番待ちの列に並ぶと、軟派そうな金髪メッシュの男が話しかけてきた。
「なぁ、名前何て言うん?あ、俺は上鳴電気な!
実技試験1位通過って、すげえな!」
ありがと!と思わず声が弾んでしまうのは、家では全く褒められないからだ。
身内意識は強く、絆や愛情はあるのだが──甘い言葉は、聞くことができない。
それで充分だと思っているし、それこそが自分たち家族なのだとも思うけれども、それでも褒められるとなるとやはり違ってくる。
嬉しいのに変わりはない。
「おう、すげぇな!名前何て言うん?」
「すごい嬉しい!ありがと、上鳴くん!」
「おお!名前何て?」
「じゃ、行ってくるね!」
「や、だから名前…」
そんな上鳴の声は既に終綴の耳には届かず。
「っもう………っ、それ!」
そしてやはり、爆豪と同じく、進行方向とは逆に向けた手のひらから爆破を起こしながら、その反動で前へと飛んでゆく。
そして、相澤の読み上げた数字は、爆豪の記録を上回るものだった。
爆豪の苛立ちは最高潮に達しつつある。
自分と同じ(と、思われる)個性。
──にしてはなぜか痛がっているが。
そもそも、自分は今まで負け無しだったのだ。
勝って勝って、ここまで来たというのに。
入試も1位だったのに。
なのに、
──実技が1位だと…?
──っクソ、こいつなんなんだよ…!!
周囲から褒め称えられる「才能」だけには甘んじず、努力も怠らなかったというのに。
今まで、1位以外なんて取らなかったというのに。
加えて気に食わないのは、終綴がへらへらと笑っていることである。
──あいつ、多分今のは本気じゃねぇ…
敗北。
その2文字が脳裏をよぎる。
しかし、すぐさまそれを打ち消した。
──他の種目…いや、総合で勝てば問題ねえ。
鼓舞するかのように、爆豪は不敵な笑みを浮かべたのだが────それもすぐさま、打ち砕かれることになる。