第2章 はじめまして
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数時間前。
HRの始まる少し前に、相澤の元を訪れていた人物がいた。
「すみませーん。相澤消太って人がいるって聞いたんですけどー、今いますかぁ?」
のんびりと間延びした声が入口の方から聞こえてきた。
新入生だろうか。
いや、口調からして相澤が教師をしているのを人づてに聞いたということだから、確実にそうだろう。
誰だろうと思いつつ首をそちらに向けると、そこにいた女子生徒と目が合った。
相澤の顔を確認すると、女子生徒はにぱっと笑った。
マスクの上からでも判るほどの、満面の笑みだった。
「センセーが"相澤消太"?」
相澤のデスクに来て、うきうきした様子で問う。
綺麗な制服はどう見ても新入生。
ヒーロー名で呼ばないあたりからしても彼女は新入生であること間違いなしなのだが、はて。
面識はないはずだ。
ならなぜ、彼女は自分を探しているのだろう?
黙って頷くと、彼女はうわ、と嬉しそうな顔をした。
そして、ぎゅっと抱き着いてきた。
──!?
あまりの唐突さに驚く。
周囲の教師たちもぎょっとしていたが、助けには来てくれない。
とりあえず様子を、ということだろう。
先に弁明しておくが、自分にこんな趣味はない。
「覚えてる?終綴だよ!」
「…終綴!?」
懐かしい名前に、更に驚いた。
終綴。
自分が高校生くらいの頃、両親の離婚により生き別れた実妹である。
「よかった、覚えてた!…私、お兄ちゃんのクラスだよ!」
クラス名簿を見たときには気が付かなかった。
何せ、最後に会ったのは彼女がまだ2歳になるかならないかくらいの頃。
挨拶等の言葉でさえもおぼつかない様子だったのに──今となっては、誰もが振り返る美少女。
明朗快活な口調が、親しみやすそうな雰囲気に拍車をかけている。
「…大きくなったな」
頭を撫でる。
子守をした記憶は殆どないが、それでも感慨深いものがあった。
──個性は確か…
名簿を思い出す。
──俺の上位互換か。
終綴の成績が優秀であったことは知っている。
何せ実技はこの目で見ていたし、担当する生徒たちの成績は皆頭に入れていた。
というか、なぜ今まで気付かなかったのか不思議なくらいである。
こちらを見上げて、終綴は笑った。
「これからよろしくね、お兄ちゃん!」
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