第2章 出会い
ゼウスから話を聞いた後も、いつも通り野原で花を摘むコレー。
『暗い地下の冥界でたった1人…はっ、冥界の王様なら部下がいるはず!よかったぁ…1人じゃなくて…』
と心の中で自己完結していた。
ニンフ達はそんな彼女を見てコソコソと話し合っている。
植物と関係が深いコレーは植物達と会話できる他、ニンフ達と心を通わせることができる。
故にニンフ達とコレーの心はお互い丸裸なのだ。
ニンフの1人が耐えきれず、声を荒らげて嫉妬を露わにする。
「ちょっとコレー!あたしたちのこと忘れないでよ!!!」
「あっ、ごめんなさいっ!決して忘れていたのではなく…その…上の空で…」
「あたしたちよりハデスの方がいいっての!?」
「えっ!?そういうわけじゃ…」
顔を真っ赤にするコレーを見てニンフ達は顔を見合わせニヤリと笑う。
このニンフ達、植物の次に恋話が大好きなのである。
嫌われ者のハデスに思いを寄せる乙女。
こんな話、食いつかないわけない。
「ふぅ〜〜ん…上の空になるほど気になってるのね〜…♪」
「あんな嫌われ者のどこがいいのぉ?教えてよ〜♪」
1人1人逃がすまいと蠱惑的に詰め寄ってくる。
「…ま、まだお話しか聞いたことありませんが…1人でずーっとお仕事をこなしているそうで…」
「言われてみれば…地上が冥界の死者で溢れることなんて一度もなかったわね」
「そんなメンドーなことよくやれるわァ〜…」
「わたくし達がこうして普段通りに過ごせるのもハデス様のおかげなのだと、改めて知ることができました。」
この感情をどう言い表せばいいのかコレーはまだ知らない。
憧れ、尊敬、慕情、景仰…全て当てはまるかもしれないけれど、なにか違う。
そんな感覚が彼女の中にほわっと湧く。
「考えたこともなかった……コレー、貴女って本当に純粋…」
「そ、そうなんですか?」
私達ニンフから聞いても植物達から聞いても悪いことしか言われなかったハデスに対して、こうも良い印象を与える言葉を生み出せるのか。
他人からの評価ではなく、彼自身の行いへの評価。
周りに惑わされない、己という確立した神。
彼女がいずれハデスと夫婦になることを誰が想像しただろうか。