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【名探偵コナン】幸せを願う

第2章 終わりの始まり


あの時、僅かでも風見の発言に肯定するような姿勢を見せていたら今頃自分は病院の外にいたのだろうかと背筋が寒くなる。内心で過去の自分を称賛していると隣から再び溜息の音が聞こえ、漸く働きだした頭が一つの疑問を弾き出した。

『これは警察上層部の判断ですか?』
「…いえ、俺の独断です」

質問の真意が分かったのか特徴的な眉を顰め”すみません”と告げる彼にやっぱりそうかと納得した。今回南海が降谷と会えるのは風見という神から与えられた残酷な程優しい猶予。

そもそも上層部からしたらこれはチャンス以外の何物でもないのだ。優秀な男が平凡な、後ろ盾一つない恋人の記憶をなくした。自分だったらその恋人を引き離して娘や姪を我先にと宛がう。彼を警察という組織に押さえつけられたなら、それが警察の利益になり、国の利益となると確信しているなら猶更だ。

いや、現実でもすぐにそうなる。
数日後には哀れな恋人は接触を禁じられ、彼には…上流階級の、後ろ盾もしっかりした婚約者ができる。警察として、国を守る者として、幸せは此方だ。
彼のことを思うなら、平然としなければならない。あなたが居なくても私は平気だと証明しなければ。
彼の未来が明るいのなら…記憶を取り戻す必要なんて…。

(私の記憶には残ってる…。それで十分…)

引き離されるその日まで笑顔で、えがお、で…

震える体を両手で抱き締め、目を閉じ無理矢理口角を上げる。
肺に溜まった息をゆっくりと吐き出し、いやだ、いやだと泣き叫ぶ心に蓋をした。




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