第4章 暗転と覚醒
灰原の前に立ち、しゃがみこんだコナンから放たれた言葉に勢いよく顔を上げた彼女の頬は見事に紅く染まっている。
ちらちらと修平に目を向けながらコナンに掴みかかる灰原を視界に入れ、そのまま姉と似た笑みを浮かべながら膝をついた男が慌てる子供の頭を優しく撫でた。
「そっか。キミが”あいちゃん”なんだね」
「…え?」
「姉さんがファンの女の子と友達になったって嬉しそうに話してたんだ。弟もいいけど、妹も捨てがたいってね」
少し妬けちゃったよと笑う修平から齎された南海の思いに、驚きで固まっていた灰原が破顔した。ふにゃりと笑うその顔はどことなく彼女の姉に似ていた。
「妹よ、キミはどう思う?降谷さんは信用できる男?」
「…。悔しいけれど、認めたくはないけれど姉さんが幸せを実感できるのはこの男の隣だけだと思うわ。…兄さん」
「決まりだな」
態と悪戯気に目を眇める修平は、不本意さを隠すことなく告げる灰原の言葉に表情を引き締める。一度頷くと立ち上がり、緊張した面持ちで佇む降谷に向き直った。
「…姉さんのこと本気、と捉えていいんですよね?」
「勿論」
「足に、麻痺が残っても?」
「そんなことで諦められるなら此処まで来ない」
確認のようにいくつも投げかけられる質問の一つ一つに答える降谷。視線を逸らすことのない修平。それぞれをコナンと灰原の二人が固唾を吞んで見守っている。
「…君が僕を信用できないのは当然だ。それだけのことをした自覚もある。だから…」
「降谷さんが悪くないことは分かっています。でもあなたが欲しいのは赦しではない、ですよね?」
「ああ」
「それなら、俺は赦しません。姉さんの隣が欲しいなら足掻いてください。それに、隣を勝ち取ったなら…姉さんを幸せにしないと許さない。俺に義兄さんって呼ばせないと絶対許さないから」
≪無茶してもいいけれど、自分を幸せにしないと許さないわよ。…無言の帰宅なんてしたら絶対許さないから≫
「っはは…流石姉弟だな。…ありがとう」
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