第2章 終わりの始まり
『そんなことで離れるわけない!っ記憶がなくたって、生きているならっ…生きているならそれでいいのに…』
睨みつけていた威勢は何処へ飛び去ったのか徐々に下がる目線の中、まぜこぜの感情を抱えて出した声はみっともなく震えていた。それが怒りなのか悲しみなのか、自分に向けたのか相手に向けたのか南海にもわからなかった。
はぁと吐き出された息に体がビクリと跳ねる。下がりきった視界には自分の手と風見の膝しか映っておらず、今の彼の表情は確認することができない。
“永原さん”と呼ぶ声に恐る恐る顔を上げて驚きと困惑で目を瞬く南海の前には安心とも自嘲とも受け取れる、頬を緩めた見たことがない風見がいた。
「すみません。少し試させてもらいました」
『…は、え?』
「あなたが離れることに肯定を示したらこのまま帰らせようかと…」
緩んだ顔でなんてこと言うんだと思いながらも、依然としてだらしない顔を晒している南海に表情を戻した彼が説明を始めた。
曰く、南海に連絡したすぐ後に目を覚ました降谷にむせび泣きながら恋人がこちらに向かっていると伝えたところ自分に恋人はいないと平然と返され、それに驚いた風見が直ちに医師を呼んだところ、見事に南海の記憶だけが抜け落ちていて記憶喪失だと判明したという。
しかし、すでに南海には連絡済みで撤回することは難しかったこともあり、咄嗟の思い付きでこうなったらしい。
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