第3章 様々な別れ
心配気な風見に笑みを返し、認識の違いがないか自分が思うこれからを述べると”間違っていない”と肯定され、考えすぎであってほしいという願いは打ち砕かれた。せめてもの願いで風見以外の警察関係者には会いたくないと告げれば、”そのつもりです”と当然のように返ってきた言葉にほっと肩が下がる。
「会わないでおきますか?」
『…え、』
「別れをいう必要もなくなりますよ」
『それただの自然消滅じゃないですか』
「そうですね」
『…会いますよ。でも、別れを言うのはもう少し待ってもらえますか?』
「…ええ」
にこりと笑う南海に一瞬顔を顰めたものの、何も言わずに扉に手をかける風見の背中を見つめゆっくりと目を伏せた。
その後は特に言葉もなくただ広い背中について歩き、ついに降谷の病室前まで辿り着いた。早鐘の如く鳴る胸に手を当て深呼吸を一つ。口角を上げもう一度深呼吸。
視線を感じ閉じていた目を開いて軽く頷くと扉が叩かれた。
「どうぞ」
その低い自分が最も安心する声に、早くも上げた口角が歪んだ。
ガラっと開いた扉から中へと歩を進めると此方を射抜く蒼と視線が絡まり、足がその場に縫い付けられた。色素の薄い髪も、健康的な褐色の肌も、芯の強そうな瞳も、南海の知る降谷と何も変わりはしないのに、彼の中に自分は居ない。
その事実に寂寥感が広がり、崩れそうになる笑顔を俯くことで隠した。
「彼女が?」
「ええ。あなたの恋人です」
交わされる言葉に顔を上げると、此方をまっすぐに見つめていた蒼が逸らされる。そんな小さなことにも虚しさを感じて苦笑すると、再び目を向けた降谷が人当たりの良い笑みを浮かべた。
「初めまして。降谷零です」
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