第2章 終わりの始まり
一般病棟から離れた所にあるという個室へ向かう途中、あれから一言も発しなかった風見が会議室と記された扉の前で足を止めた。
「降谷さんに会う前に話さなければならないことがあります」
そう告げる彼に会議室へ促されながら、怪我の状態や見舞いの頻度についてだろうかと考えていた。
まだ確認してないが生死を彷徨う程だったのだ、ひどい怪我であることは間違いないだろう。これから入院生活を送り、リハビリもしなければいけないのだから結構な期間の入院になるかもしれない。
そうなったら病室で仕事を始めそうだ、と容易に想像できるその姿に苦笑を浮かべた。
「永原さん」
『は、ぃ』
自分の名を呼ぶ声に下げていた頭を持ち上げ風見を視界に入れた時、心の隅にあった小さい何かがむくりと起き上がった。
今まで彼が感情を面に出している所をあまり見たことがなかったのだが、この時の風見は罪悪感を全面に押し出した顔をしていたように思えた。
それを理解した途端に顔を覗かせていた嫌な予感が膨れ上がりカタカタと体が震え始める。
絞り出すように返事をする南海に風見は深く息を吐き出すと重たい口を開いた。
「今の降谷さんにあなたの記憶はありません」
『……え?』
ガツンと鈍器で頭を殴られたような気がした。いっそ本当に殴られた方がまだ痛くなかったかもしれないと脳の片隅で冷静な自分が呟いた。
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