第2章 終わりの始まり
『風見さん!風見さん着きました!何処に行けばっ』
「そのまま前へ。正面玄関口にいます」
その言葉の後直ぐに切れた携帯を耳から離して忙しなく動かしていた視線を固定すると、ぼやけていたシルエットがはっきりとしてくる。
至る所にガーゼや包帯を巻いているがいつものようにピシッとした姿勢で此方を見つめる風見へ走るスピードを速めた。
『風見さん!』
「こちらへ」
走ってきた勢いを殺すことなく南海の腕を掴むと大股でエレベータへ歩を進める風見に、そんな筈ないと思いながらも思考は悪い方へ傾いていく。
エレベータ内は二人以外に人はなく、静かだからこそバクバクと五月蝿い鼓動が更に思考を沈めていった。
「二日前に手術は終わっています」
『!』
「一命は取り留めました。体と精神を疲労した所で負った傷だったので今まで危険な状態でしたが、先程目を覚まされました」
告げられた希望に安堵から座り込みそうになる足に力を入れる。途端に目頭が熱くなり流れる雫が頬を濡らしていく。震える手で口元を押さえ必死に嗚咽を殺したが、溢れる涙を止めることは出来なかった。
『っよかった…』
掠れた声で呟く南海の腕を掴む手がぐっと強く握られた。
その込められた力の意味をこの時はまだ理解していなかった。俯き涙を流す南海を見下ろす瞳が酷く揺れていて、悲しげに逸らされていたこと等知らずに、ただ繋ぎ止められた命に安堵していた。
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