第4章 暗転と覚醒
「っ安室さん!?」
名を呼びながら駆け寄り、膝をついた降谷に目を瞠ったのはコナンだけだった。傍らで南海の呼吸を確認して脈を計る灰原は射殺すような眼差しを送り、自身の成すべきことに意識を戻していく。
降谷にそれが認識できたのかそれは本人以外知ることは出来ないが、少なくとも血の気が引いた顔にそんな余裕は見られなかった。
「…南海」
地面についた膝が血を吸い紅く染まる。徐々に上に上がる染みに構うことなく、そっとその頬を撫でる。頬を流れる生暖かい血が途中で途切れ降谷の親指を汚した。
口から出た声は酷く掠れ、野次馬の喧騒に掻き消された。
「…っごめん」
すぐ隣で懸命に止血を試みるコナンにすら聞こえぬ程の音のまま謝罪を口にした降谷の手は頭部へと伸びる。
頬を流れている血の大本であろうそこは指の隙間から命を削り続けている。それが南海の諦めのように感じた降谷は漸く我に返って辺りを見渡した。
野次馬からタオルなどを受け取り止血するコナンの斜め後ろで、灰原が放り投げられた南海のトートバッグから散らばった小物を搔き集めながらカメラを向ける人間を咎めていた。
「哀ちゃん!その中に膝掛けがないか!?」
張り上げた声に一瞬動きの止まった灰原だが、すぐにバッグを漁り目当ての物を降谷に投げる。その瞳は揺れ、唇は切れる程に噛み締められていた。
真っ白いそれを片手で受け取り、もう片方の手と交換するように押し当てた。見る見るうちにお気に入りだと語っていた白に紅が侵食していく。
「南海、南海!!聞こえるか!?すぐに救急車が来るから!頼む、頑張ってくれ!」
懇願するような降谷の叫びに野次馬は息を吞み、手を動かす二人の手は震えた。
止まらない血に苛立ちと共に舌打ちをした時、遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
「南海!救急車が来たぞ!必ず、必ず助かるから!…生きることを諦めないでくれ!」
血で汚れる南海の頬に水滴が落ちた。ポタポタと途切れることのないそれは降谷の瞳から流れ落ちていた。
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