第4章 暗転と覚醒
到着した救急車に同乗した降谷は救急救命士が冷静に処置をする傍らで救急隊員の質問に答えていた。
永原南海、女性、25歳、血液型。
「持病や服用している薬はありますか?」
「…すみません。彼女とは数か月会っていないので」
顔に付いていた血は綺麗に拭き取られ、指先に酸素濃度を測るパルスオキシメーターを付けて、酸素マスクを装着した南海を見つめながら答えていた降谷の言葉が途切れ、真っ赤な血で染まる手が強く握られた。
「持病はなし。常用薬もなし。今日服用した薬もなしよ」
「僕ら一昨日南海さんの家に行ったけど、常備薬以外の薬はなかったよ」
力強い声にハッとした降谷が南海から視線を外す。いつの間に乗り込んだのか、服や手を真っ赤に染めたコナンと灰原が隊員を真っ直ぐ見つめていた。
それに頷いた隊員が自身の持つボードにペンを走らせた。
「…最後に、あなた方は?」
「降谷零です。彼女の…友人です」
「灰原哀。同じく友人よ」
「江戸川コナン。僕も友人だよ」
「そうですか。では何方か、ご家族にご連絡をお願いします」
「はい。…搬送先は何処になりますか?」
彼女の両親は五年前に他界していて、家族は弟が一人。東都の大学病院で医療事務をしている。
直接会ったことはないが情報として降谷の脳に保管されていた。
少しの間の後、隊員の口から出た病院名は南海の弟の勤務先だった。だが、降谷が忘れていたこの数か月の間に転職している可能性もあった。
徐々に酸化して茶色く変色し始める血を纏ったまま素早くメールを立ち上げ、風見の文字をタップする。状況の説明と弟への連絡を頼み、最後に心配かけてすまなかったと付け加え送信した。
.