第2章 終わりの始まり
「っ降谷さん!!!」
再び取り押さえられた男から、大きな目を更に開きながら愕然とするコナンへと視線を移した。当たっていないか全身を目視で確認して安堵の息を吐くとグラッと体が傾く。
激しい痛みと共に真っ赤な熱を吐き出す穴を押さえると、今にも泣き出しそうな顔をした少年が自身の小さな手を上から重ねた。
なんて顔をしてるんだと余裕なく笑う降谷の脳裏で琥珀の瞳を柔らかく細める恋人が自身の名を紡いだ。
「(ああ、今回は泣くだろうか…)」
絵本作家の彼女は悲しさが文字と色彩に表れるからと降谷が大きな怪我をしたと知ると製作を中断して人知れず泣いているようだが、それを降谷には見せようとせずにいつも泣き腫らした目で笑う。その姿を見る度に申し訳なさと愛しさで胸が締め付けられた。
怪我の事を教えなければいいだけなのだが、知らずに笑っていたくはないと胸ぐらを掴んで怒鳴りつける恋人が初めて目の前で流した涙を見て白旗を上げたのは自分である。
今回も風見から連絡がいくのだろう。
泣くだろうか、怒るだろうか…。
いや、きっと溢れんばかりの涙を浮かべながらも笑うのだろう。あいつはそういう女だ。
「(南海…)」
蒼を隠した瞼の裏で此方に手を伸ばす彼女の頬に涙が伝う。
朦朧とする意識の中、確かに何かが消える音が聞こえた。
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