第3章 様々な別れ
「新一兄ちゃん来週帰ってくるんだ」
『あ、外国にいたのね』
なるほどと視線を上にずらして頷く南海の瞳に曖昧な笑みを浮かべる二人の姿は映ることはなく。
「志保お姉ちゃんも来週から日本の大学に通うの」
『だから明美さんの分だけ持っていくのね』
「入れ違いなるからね」
自分の中の疑問が解消され、満足気に顔を綻ばせる南海は氷が解け随分と薄くなったコーヒーを飲みほした。二人のグラスもほとんど中身がなく、新しいのを入れてこようとお盆を手に取ると、二人は揃って首を振った。
「僕たちそろそろ帰らないと…」
「荷物の整理、まだ済んでないの」
『そう。忙しいのにありがとう』
寂しさを紛らわせるように笑みを作る南海にコナンと灰原も同じような顔をした。自分と同じように寂しいと感じてくれているのだと最後に二人を抱きしめた。
肩に顔を埋めるコナンが僅かに体を離した。青い双眸が琥珀と絡む。
「南海さん」
『ん?』
「本当に恋人に会わないんだね?」
『…ええ、会わないわ』
「わかった」
杯戸駅まで送るという南海の申し出を断った二人を玄関まで見送ると、”そうだ”とコナンが声を上げた。
「南海さん明後日空いてる?」
『…ちょっと待って』
リビングまで早足で戻り、テーブルに置かれた携帯に手を伸ばす。スケジュールを開いて二日後の数字をタップした。赤く表示されている数字の下は空白でコンビニのシフトがないことに人知れず安堵した。
携帯を手にしたまま二人の下へ戻った南海は敷かれたマットの上に座り込む。
『予定はなし。24時間空いてるわ』
「じゃあ、私たちと最高の思い出を作るって予定を入れてくれる?」
絵本の入ったカバンを背負った灰原のウェーブの掛かった髪が傾げられた首に添うように流れた。
出会った時と同じくその髪を梳いた南海の瞳が悪戯気に細まる。
『24時間連れまわすかもしれないわよ?』
「なら明日は一日中寝ているわ」
くすくすと笑いあう女二人に、頭の後ろで手を組んだコナンが仕方ないというように溜息を吐いた。その顔には二人と大差ない笑みが浮かべられていた。
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