第3章 様々な別れ
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マットの上に座ったまま手を振る南海に背を向け扉を潜る。歩き出した二人に先程の笑顔はなかった。
「それ、渡すの?」
「それが条件だからな。…そんな心配すんなよ。きっと悪いようにはならねぇから」
渋面を浮かべる灰原を宥めたコナンが取り出したのは小型のボイスレコーダーだった。
本来なら、コナンと灰原が元に戻るのは一か月前のはずだった。それをここまで引き延ばしたのは南海への罪悪感に他ならない。
◇◇◇
南海の居場所を突き止めることが出来ず、FBIを頼る案を赤井を恨む灰原に告げようかと悩んでいたコナンの前に降谷の部下だと名乗る人物が現れたのが二週間前。
コナンの手と然程大きさの変わらない機器を差し出したその人物は、南海に恋人と会わないと言わせることが出来るなら住所を教えると無表情で持ち掛けた。
勿論コナンがそれに頷くはずもなく。鋭く睨みつけ、レコーダーを押し返そうと手に力を入れた。
「今、永原南海には上からの命令で監視がついている。君が引き受けてくれたらそれも解けるんだ」
顔を寄せ、声を潜めた男の眉が顰められた。”頼む”と子供に頭を下げたその姿にコナンの頭に一つの可能性が浮かぶ。
「”恋人”と会わないって言わせれば良いの?」
「…ああ」
「でも南海さんと降谷さんは別れたんでしょ?…恋人って誰の事?」
不適な笑みを浮かべるコナンに、目の前の男は観念したように息を吐き、同じように口元を吊り上げた。
「さあな。ジョン・ドゥじゃないか?」
様々な別れFin.