第3章 様々な別れ
『そう…』
「ごめんね、南海さん」
『謝らないの。…会いに来てくれてありがとう。それだけで嬉しいわ』
「南海さん」
『なぁに?哀ちゃん』
ごそごそと鞄を漁る灰原に視線を向ける南海の前に二冊の本…《にじのはし》が差し出された。テーブルに置かれたそれをじっと見つめると、はにかむように微笑んだ灰原がペンを隣に置いた。
「私の従姉妹のお姉ちゃんたちも南海さんのこの本が大好きなの。だから良かったらサイン貰えたらと思って…」
『ふふ、嬉しい。勿論、喜んで。お姉さんとお揃いにするのね』
「ええ。三つお揃いにしたいから、名前も入れてほしいわ」
『いいわよ。名前はなんていうの?』
南海の言葉に一瞬泣き出しそうに歪められた瞳は、次いで懐かしさに細められた。何かの儀式のように胸に手を置いた彼女の隣でコナン瞳も閉じられた。南海は、一つ息を吐いた後ふわりと嬉しそうに微笑む彼女の表情に従姉妹への愛の大きさを感じ取った。
「…明美と志保よ」
漢字を聞きながら書き終えたサインの刻まれた絵本を手渡すと、ぎゅっと抱きしめ片方をコナンへと渡した。首を傾げる南海にニッと笑みを見せるコナンとくすりと口角を上げる灰原。
「私が持っていくのは明美お姉ちゃん用だけなの」
『…もしかして二人も従姉弟?』
「ううん、違うよ。志保…さんの方は新一兄ちゃんに渡してもらうんだ」
『あぁ、工藤新一くん?でも彼最近見ないわよね…』
工藤新一とは日本の救世主と謳われるほど頭の切れる探偵だ。最近めっきりメディアへの露出が減った彼と灰原の従姉との関係が分からず唸る南海に二人から正解が明かされる。
驚くことに工藤新一も先程の事件に係わっていたらしい。ひょんなことから真実を探さざるを得なくなり、探るうちに強大さに気づいた新一は周りを守るために身を隠した。その中で同じ境遇の志保と相棒のような関係になったという。
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