第3章 様々な別れ
「南海さんは絵本作家だってさっき言ってただろ」
「そうでした!」
「どんな絵本書いてるの?」
キラキラと純真な瞳に目尻を下げた南海が口を開くよりも早く言葉を紡いだのは灰原だった。
「みんなが好きな本を書いている人よ」
「好きな本?」
「…あ!ま、まさか!」
思い当たったらしい光彦がパクパクと口を開閉させている隣で、やってきたクラブハウスサンドをパクパクと平らげていく元太は既に此方への興味が料理に移ったようだ。口の周りにソースを付けたまま瞳をキラキラと輝かせている。
「お風呂金メダルの…」
「にじのはしの…」
「んぐっ、ウナギがゆくもか!?」
瞠目しながら作品名を口に出す歩美と光彦、口いっぱいに頬張っていたものを飲み込んだ元太、それぞれを見つめた灰原が芝居がかったように肩を上げ、手を南海へと向けた。
「そう。その全てを生み出した永原南海先生よ」
「「「えええええ!?」」」
◇◇◇
シンと静まり返った室内、カランと氷の揺れる音がやけに大きく響いた。
懐かしい思い出に浸っていた灰原が思考を戻すと、俯いていたコナンが徐に顔を上げる。その瞳はうろうろと室内を彷徨い、暫くの後観念したように南海を視界に入れた。
見上げられた本人はアイスコーヒーを一口飲み下し、困ったように眉尻を下げた。
『まだ何かあるのね?』
「…僕たち、来週外国に行くんだ」
『…え?』
揃って悲しげに眉尻を下げる二人の話によると数か月前、降谷が記憶を無くすきっかけとなったあの日に終結した事件にコナンと灰原の家族も巻き込まれていたのだという。
それにより会うことの叶わなかった家族と漸く共に暮らせることとなった。しかし、未だ事件に係わった全員が捕まった訳ではないらしく日本で暮らすことは出来そうにないと訥々と語るコナンに南海の琥珀は徐々に隠されていく。
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