第3章 様々な別れ
「あの…」
店内は休日ということもあり、家族連れや高校生位のグループで賑わっている。
掠れる程小さく呟かれた灰原の言葉は喧噪にかき消され、自分でも驚くほどの緊張に膝の上で握った手は湿っていた。
「…灰原?」
俯き、手を握りしめる灰原に漸く隣が気づいた。その姿が組織に怯えているように見えたコナンの瞳は鋭く剣呑を帯び、店内を警戒するように見渡した。
隣で肩を震わせる灰原に顔を寄せてこの中にいるのかと問おうとした瞬間、勢いよく俯いていた顔が上がった。
「あの!」
『?…どうしたの?』
鬼気迫る表情で此方を見る子供に南海は口を付けようとしていたカップを下ろして気を引き締めた。注文した料理を待っていた探偵団も何事かと身を寄せ合い此方を窺っている。
「サイン、ください!」
「「ええぇ!?」」
「はあ!?」
これから何が始まるのかと心配する者と、この中に組織の人間がと警戒する者、その両方を裏切った灰原は南海の返答を緊張した面持ちで待っていた。
『ええ、喜んで』
頭を上げたときに乱れ、顔にかかった髪を南海の細く柔らかい手が優しく梳いた。きょとんと丸められていた瞳は弓なりに細められ、唇は綺麗に弧を描いている。
サイン=有名人という方程式が成り立っている探偵団は先程よりも燥ぎ、女優?歌手?モデル?と様々な職業を口にしては南海に首を振られている。
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