第3章 様々な別れ
複数の鞄と共に聴取を受けていると、一人、また一人と若い女性が訪れては自身の名を名乗る。警察官から軽く質問を受けた後、鞄を手に頭を下げて去っていった。
残りが一つになったとき、粗方事情を聞き終えた警官が顔を上げた。”お手柄だったね、だけどあまり無茶はしちゃいけないよ”と聞き慣れた文言に子供たちの元気な返事が返る。
そこへ慌ただしく駆け込んできた一人の女性は、息を乱しながらも凛とした声で自身の名を告げた。
その名が灰原の心を掴んだ絵本作家と同じものだということに興味を惹かれなかったといえば嘘になるが、同一人物である確率はとても低い。著者に書かれた名が本名とも限らないのだと頭を振る。
最後の一人が現れ、盗られたものが全て持ち主の元へ帰ったことに安堵の息を漏らし、正義の味方に褒められたことを喜ぶ探偵団三人に博士が待っていると口を開こうとしたとき、職業を聞かれた女性が鞄を漁り一つのスケッチブックを取り出した。
『絵本作家をしています。今日は新しい本のテーマを決めようと外に出たんです』
絵本作家という言葉にピタリと体が固まった。すいと横に泳ぐ視線は女性の持つスケッチブックに縫い付けられる。
余程間抜けで焦がれるような顔をしていたのだろう。コナンが慣れたように猫なで声を使い、必要な情報を引き出していく。
それにより判明したのは、彼女があの永原南海であり歳は25。次の絵本の題材を探しに街へ繰り出し、そこで運悪く鞄をひったくられたということだった。
男を捕らえたのが少年探偵団だと知ると彼女は途端に眉尻を下げ、怪我の有無を問うた。肩を掴まれたまま首を振るコナンを見つめ、後ろにいる歩美たちに視線を向ける。三人も同じく首を振れば、つい、と案じるような瞳が灰原を捉えた。それに大丈夫だと返せば漸くはああと息を吐き出した南海は微妙な顔をした。
大方、助けられた立場では子供の無茶を叱れないといったところだろう。
そのまま飲み込んだらしい彼女のそこの喫茶店でお礼をさせてくれとの言葉に真っ先に頷いたのが誰かは言わなくてもわかるだろう。
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