第3章 様々な別れ
それから数週間たったある日、少年探偵団は白昼堂々と女性の鞄をひったくる男と遭遇した。自分に取らせてくれたことへの礼を下劣な笑いと共に吐き出しながら去っていく男の頭部にコナン自慢のサッカーボールが炸裂。御用となった。
自転車で連続的に犯行に及んだ犯人はご丁寧に籠の中に戦利品を詰め込んでおり、派手な音を響かせて倒れた拍子にいくつもの鞄からバラバラと物が散らばった。そこには被害者の身分証や携帯などがそのまま入れられていた。
現れた警察官からの事情聴取を受け入れたコナンに小さく溜息を吐いた灰原は博士へと連絡を入れた。
まさかいつものように付き添ったことを感謝する日が来ようとはこの時の灰原は思ってもみなかった。
◇◇◇
『本当にありがとう。何でも好きなものを頼んでね』
警察署の近くにある喫茶店で鞄を大事そうに撫でた女は笑みを浮かべている。
お礼という名のご褒美に子供たちはきゃいきゃいと燥いでいる。それを見つめるコナンは目の前の女性に同情のような視線を送っていた。
横目で探偵団の確認を終えた灰原は、目の前の女性に視線を移した。
黒くまっすぐな絹のよう髪は胸元で揃えられ、前髪は緩く右に流されている。髪とは対照的に肌は白く、外にはあまり出ないことが窺える。
そして黒と白のコントラストよりもひと際目を惹くのが、琥珀色に輝く瞳だった。
彼女の瞳は燥ぐ子供たちに向けられている。どれにしようかとメニューを眺めながら腕を組む歩美と光彦に微笑み、何個でもいいのか!?と目を輝かせる元太に頷こうとした南海に流石に拙いと思ったのか灰原の隣に座るコナンが口を出した。
落胆した元太に眉尻を下げた南海が何かを言う前にコナンに手招きされ、コソコソと耳打ちされている。
内容は聞くまでもないと近くなった顔を失礼にならない程度に見つめるが、瞳以外のパーツは何処を見ても日本人にしか見えず、自分と同じハーフ、もしくはクォーターかワンエイスなのかもしれないと人知れず心を躍らせていた。
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