第3章 様々な別れ
『ごめんね、今ジュース置いてなくて…』
「コーヒーで構わないわ」
「僕も」
数か月前振りでも変わらず子供らしさのない二人が妙に嬉しくて、コーヒーを注ぎながら此方を見つめる青と緑に目を細めた。
コースターに乗せられたグラスが三人の前に置かれるのを待っていたのだろう、南海が自分のグラスから手を離したその時、再びコナンが頭を下げた。
「南海さん、ごめんなさい」
『私、君に謝られる理由が思いつかないんだけど…』
どんなに記憶を遡っても思い当たるものがない。コナンと会うのは彼らの通学路や、ポアロ、たまに誘われて行った公園で探偵団の保護者などその程度。
覚えている限りではあるが、その中で彼が頭を下げるようなことなどなかった筈だ。
利発そうな顔を伏せたままのコナンにどうしたものかと思い悩んでいると、南海をじっと見つめていた灰原が隣を肘でついた。
「いつまでやってるのよ。いい加減説明したら?」
腕を組み呆れたような瞳で見下ろしながら放たれた言葉に漸く顔を上げたコナンは目尻を下げ、口元を引き結んだ。膝の上で固く握られた拳は白くなり、随分と強く握られていることがわかる。
ソファを背に座る二人の対面に腰を下ろしていた南海が膝立ちのまま回り込み、そっと冷たくなっている手を取ると何かを堪えているような瞳が伏せられた。
「降谷さんが記憶をなくしたのは僕を庇ったせいなんだ…」
『…え?』
「でも、その経緯は言えなくて…。本当は謝るのも禁止されていたんだけど、それだけは納得出来なくて…どうしても謝って」
『…怒られたかった?』
最後の言葉を引き継げばビクリと肩が震えた。南海と視線を合わせようとはしないが、それでも深く頷いた。
「卑怯だってことはちゃんとわかってる!子供だからとかそんな」
『怪我は?』
「…え?」
依然として目を合わせないまま張り上げられる言葉を遮ると、きょとんとした瞳にふにゃりと情けない顔をした南海が映り込んだ。
.