第3章 様々な別れ
何度も謝罪と感謝を告げられて困ったように笑う田端が帰ると南海も家を後にし、昨夜の内に調べておいた少し遠めの不動産屋へ向かう。
自分の条件と近い物件を見繕って内見の申し込みをすると人の良い店長が"早い方がいいでしょう"と笑い、車を出してくれると言う。その好意に甘えてそのまま向かうことになった。
物件の場所と現住居は地図でいえば対極に位置している。米花町の隣である杯戸町に建つマンションを見上げて内見の前に周辺を見たいと言えば、目元の皺を深めながら快諾された。
周辺環境やセキュリティなど、外で確認出来るものを済ませると漸く室内へと足を向ける。朗らかな笑顔で渡された資料に目を落とし、説明を聞きながらぐるっと見渡した部屋の内装が今の部屋とかけ離れていることに人知れず胸を撫で下ろした。
全ての部屋を解りやすい解説付きで周り終えると、自分の想像以上の物件に気づけば契約する旨を伝えていた。謎の達成感と共に現住所へと戻る足で、後戻りが出来ないようにと部屋の解約の手続きと携帯の番号を変えた。
薄暗い部屋のソファに腰を沈め、見た目には変わらない携帯の履歴やメールにある降谷零の文字を消していく。一つ一つ消す度に涙で視界が滲んで、その度に顔を手で扇いだり上を向いたりと手を止めつつも全てを消していき、最後に電話帳に表示されたそれが消えるのを見届けると遂に堪え切れなかった涙がボロボロと溢れ出すを隠すように膝を抱えた。
『っバイバイ…零くん』
そして新天地でコンビニのバイトを始め、彼のことを忘れようとがむしゃらに走り抜け、早3か月が経過しようとしていた──。
◇◇◇
「南海さん!」
絵本作家とは異なり、ある程度決まっている休みにも慣れてきたある日、唐突に呼ばれた名に反射的に振り向けば、そこには懐かしい二人組が息を切らして立っていた。
“やっと見つけた!”と言う彼らに探してくれたのかと少しの嬉しさと申し訳なさを感じ目尻を下げると、二人の顔にも若干の笑みが浮かぶ。
『コナンくん、哀ちゃんも…久しぶりね』
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