第3章 様々な別れ
静かに聞いてほしい時に限っていつも茶々を入れてきた降谷を思い出し、溢れ出る思いが涙となって流れてしまいそうで言いたいことの半分も言えなかったけれど、最後に優しく微笑む彼が見れたから良しとしようと立ち上がり背を向けた。
扉に手を掛け力を入れようとしたとき、後ろで小さく声が聞こえたがそのまま病室を後にした。
下まで送るという風見についていくと行きと同じように会議室に通された。椅子を勧められ腰かけると横からすっとカフェオレが渡され、咄嗟に受け取ってしまった。飲む気にはなれず手慰みに両手で転がしていると隣に腰かけた彼が自分の珈琲を見つめながら口を開いた。
「別れを言うのはもう少し先…だったのでは?」
『聞いていたんですね』
「すみません」
『彼が…れ、降谷さんがそう望んだから…』
「え?」
『こんな男に別れを言う時間掛けるなって顔していました。でも、優しくされなくてよかった。縋れないようにしてくれて…希望を潰してくれてよかった…』
「…言いたいことは言えましたか?」
『ふふっ全然!全然言えませんでした』
「そうですか」
そこで途切れた会話はそれ以降大して弾むこともなく、貰ったカフェオレをちびちびと飲み干すと家まで送るという彼の言葉に頷き、マンション前で下してもらうと今日の礼を言って別れた。
もう会うこともないその姿が見えなくなるまではと思ったのに、視線に気づいた風見が早く入れと促すので深く頭を下げ自室を目指し歩き出した。
"幸せに"
自分の幸せは約束しないくせに…本当に出来すぎた男で困る。
出来ることから頑張るから、と心の中で返事を返した。
だから、今だけは好きなだけ泣かせて…。
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