第3章 様々な別れ
『初めまして…、永原南海です』
ズキズキと痛む胸に気づかない振りをして、引きつらないように笑みを貼り付け自己紹介を済ませると、”へぇ”と感心したような声が耳に届く。それを発した本人は興味深いとばかりに硝子玉を細めて首を傾げた。
「強いんですね…、それとも虚勢かな?」
『そう見えますか?』
「あれ、答えてくれないんですか」
“つまらないなぁ”と肩を竦める彼の横で風見が目を剝いているのが見えて、ふと力が抜けていくのがわかる。固まっている彼に声を掛け二人にしてほしいと頼むと一度降谷に目をやったあと退出していく。その背中を言葉なく見送り、完全に扉が閉まったことを確認して降谷に向き直った。
「座ります?」
『いえ、お構いなく。言いたいこと言って勝手に出ていきますから』
「そうですか」
“どうぞ”と手で続きを促す降谷に苦笑しながらその顔を見つめた。優しく、柔らかく細められていた瞳は、今は何の感情もなくただ話が終わるのを待っている。それでも…、冷たく接する意図が分かってしまったから、その不器用な優しさに無意識に笑みを浮かべた。
『私、幸せだったわ。そりゃあ会えない日の方が多かったし、会えたと思ったら怪我してたりしたけれど…、』
「それ幸せじゃない気がするけど」
『もうっ黙って聞いて零くん!まったく…あ、ええと、っ、ほら!忘れちゃったじゃない!』
「…急にしゃがまないでくれます?」
『っふ、っとにかく!格好良くて、紳士で、でも子供っぽくて、大雑把なあなたを好きになれて幸せだったの!』
「後半悪口ですよね?」
『あはは!…素敵な方と幸せになってね』
「そうですね」
幸せになるとは言ってくれないんだなと正直な彼に笑いが零れる。俯いたままの頬を伝って涙が一粒床で弾けた。
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