第15章 運命の番(過去編)2.5
嬉しさを隠そうとしたが、未だ体はヒートが少し治まったくらいであり自分自身もコントロール出来るような状態じゃない為、フェロモンを溢れさせてしまった。頬を赤くして、俺から視線を逸らす彼女に申し訳なくて狼狽えつつ謝る俺に「大丈夫です。皆さん最初はそうですから無理もありませんよ」とまた気遣って、沈んでしまう俺を簡単に救い出してくれる。車へと乗り込むその後ろ姿の姿勢さえも、しっかりしていてドキドキする。背筋を伸ばし、真っ直ぐで凛とした表情は子供に見えない妖艶さと危うさがあった。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花…ということわざがあるが、彼女はそれに当てはまった。俺が守りたい日本そのものを具現化したような天上の美がそこにある。日本の作法なども習っているのだろうか、彼女が着物を着たらさぞかし映えるのだろうなとうっとりする。
「それじゃあまた」
「必ず連絡する…春枝。俺…おれ…」
「ゆっくりで構いません…落ち着いて話して下さい」
「っっ!お、俺の…番になってはくれないだろうか」
「へっ…?」
きょとんとした少女らしい年相応の顔に、今度は庇護欲が沸き起こる。春枝は俺を見上げて、困ったように笑った。迷惑だろうと一瞬は考えたが本能は彼女を欲していた。番になりたいと心からそう望んでいたのだ。逃したくはない、どうか拒まないで欲しいと願った。
「番候補で…お願いします。私はまだ中学生ですから…」
「!す、すまない…そうだな。焦る気持ちを抑えられなかった」
「いいえ…嬉しかったですから。それでは…」
「本当にありがとう…またな」
「はい、また…」
後部座席から頭を下げた春枝は、運転手へと声を掛けて車を発車させた。小さくなり見えなくなるまで俺は彼女の車を見て吐息を漏らした。
ーーー。
「ゼロ…お前やっぱり」
「景光か、そうだな…お前の言った通りだったよ」
一週間程休んだ俺に、景光は驚いたように目を見張った。しかし直ぐ俺の体を心配するように尋ねて来るから、やっぱりこいつは優しい奴だと呆れたように笑った。
「番…候補か…」
「あぁ。まさか助けてくれた人が年下のαの女の子で…運命だとは思わなかったさ」
「そうか…運命な」
「その子にお前を会わせたいんだがーー…」
「駄目だ!」
「えっ…景光?」
「あ、いや、悪い…」
景光が嫌がるから分かったと頷いた。