第15章 運命の番(過去編)2.5
α性特有の整った顔に、中学生にしては随分と落ち着いた雰囲気に戸惑う。透き通った肌、さらりと流れる手入れのされた艶のある髪、危うさを持った中学生の制服、長いまつげが色白の肌に濃い影を落とし、煌めくような大きな瞳、ぽってりとした魅惑的な唇。この世に存在するのかと疑いたくなる程の雰囲気を醸し出していた。
俺の家へと送ってくれる彼女、春枝をついつい盗み見て観察してしまう。高校三年である俺は、今かなりポンコツへと成り下がってしまっているだろう。5才も年下の女の子に対して思春期の、小学生や中学生のような反応を返しているし。ぱちくりと瞬きして、ふんわりと俺を安心させようと気遣うような笑顔を作る彼女にときめいてしまうのも事実だった。くらりと眩暈がして、ドキドキと高鳴る胸を必死に落ち着かせようとギュッと握り締めた。これ以上格好悪い姿を晒したくはなくて彼女から顔を背けた。
ーーー。
家まで送り届けてくれて、それ以上に春枝の行きつけの病院へと連絡もしてくれた。なにからなにまで世話になりっぱなしで、申し訳なくなってくる。そんな俺の気持ちも彼女はお見通しというのか、力強く大丈夫だと安心させてくれるような笑顔で頷いていた。一通りのやり取りを終えて、彼女は車へと乗り込もうとする。その時体が無意識に動いた。嫌だ、もうこれっきり会えないかも知れない。Ω性でショックなのは認めるが、それ以上に春枝との関わりがなくなってしまうのが怖い。
「春枝…」
「はい、どうしましたか?」
「俺…あの…いや…先ずは、そうだな。助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。未然に防げて良かった…お兄ちゃんは顔が可愛いから危なかったですからね」
「かわっ…今更で申し訳ないけど俺は降谷零という」
「!…じゃあ零さんですね、宜しくお願いします」
「あっ!いや…なにか分からないことがあった時、連絡しても構わないだろうか」
そのことに対しては嘘じゃない。だが俺は本音をいうのなら、彼女との関わりを今終わりにしたくはなかった。春枝はきょとんと大きな瞳を丸くさせて、直ぐにΩの運転手へと声を掛けた。この子は中学生として扱ってはいけない気がして来た、それくらいサラサラと書いた文字は丁寧で達筆だったのだ。これが春枝の番号か。震えてしまいそうになる手に力を込めて受け取った。