第15章 運命の番(過去編)2.5
αとΩは昔から相性が悪い。やはり差別はなくならないし、Ω性をどこか種馬と同じような扱いをするα性は多いのだ。俺は景光がΩだったこともあり、誰構わず優しく接していたが…まさか自分自身もΩだと思わなかった。非情な程、悲しみにくれてしまい子供のように大泣きする俺に対して小さな少女は困ったように眉を下げた。
「ちがぅ…俺、おれが…Ωだなんて…そんなの、おかしぃ…」
「お兄ちゃん…」
可笑しい。でも抗えない。目が合った時、俺は既に彼女に囚われてしまったのだ。この子の番になりたい、俺の運命…そう気付いてしまう。熱のある目で少女を見て、吸い込まれるように抱き着いてしまっていた。項を噛まれても構わないと思ってしまう俺へ、安心させるような声でまた発情抑制剤と水筒を手渡される。澄んだ声に、安らぎのある小さな体は俺の体へすっぽりと収まった。
「大丈夫、大丈夫ですよ…お兄ちゃん。先ずは落ち着いて薬を呑みましょうか。今からΩの運転手を乗せた自動車を寄越します、だから今だけの辛抱です…落ち着くまで私が貴方の傍にいます」
どうぞと手渡した薬が例え、もうそれが媚薬でも一切抵抗はなかった。寧ろ俺はこの子になら抱かれてもいいと思ってしまっていた。震える手で薬を飲み、水筒を手に持つと勢い良く流し込む。そして彼女へと抱き着き強く抱き締めて快感の波を必死に抑え込もうと、ただただ甘やかして背中を撫でてくれる彼女に甘える俺は声を押し殺した。そんな時も、α性の優秀さが垣間見えておりΩの運転手へと交代するよう命じている少女は本当に凄いなとクラクラする頭の中で観察した。
ーーー。
「家までお送り致しますね、それで少し落ち着きましたか?」
「その…すまなかった。初対面の女の子に抱き着くなんてどうかしているな…」
「いいえ、初めてのヒートなら仕方ないでしょうし…戸惑うのは当たり前です。お気になさらないで下さい」
「あの…君はいったい」
「桜花春枝と言います、ただのαの中学生ですよ」
「あるふぁ…そうか、やはりか…」
「αと乗車はやっぱり嫌ですよね、私のせいでヒートを上げてしまう結果になってしまったのなら逆に申し訳ないんですけど…」
中学生でここまで気配りが出来るなんて、と驚くも感謝しかなかったりする。なによりずっと俺の傍にいてΩの運転手が来るまで抱き締めたまま周りへ牽制してくれた相手だ。