第15章 運命の番(過去編)2.5
緑川side。
高校生になりかけの俺が、助けた女の子が運命だったなんて誰が想像出来ただろうか。
ーーー。
俺は学校帰りに偶然その子と居合わせた。小さく震えて見えたランドセルを背負う少女と不審な男は女の子に向かって笑い掛けている。以下にもな怪しい雰囲気に、俺は急いでその少女へと向かった。最初はその女の子はΩ性かと思った、相手の男がα性なのだと…だが近付くにつれて、話す会話が聞こえて来て目や耳を疑った。
「春枝ちゃん…可愛いねぇ…春枝ちゃん、俺の番になってよ。幸せにする?ね、いいでしょう?」
「いや、やだっ…は、離してっっ」
「泣き顔も可愛いなー…ほら。ちょっと俺の項を噛んでくれたらでいいから。簡単だろう?俺ね…ずっと近くで見て来たんだよ」
手首を掴み、無理矢理ワゴン車へと連れ去ろうとする男はまさかのΩ性だったのである。となると今にも泣き出しそうな女の子はα性ーー…そう彼女の前に立ちはだかり、触れている手を引き剥がす。警察へと連絡を入れれば、逃げるようにワゴン車は去って行った。番号を警察へ伝えたから直ぐに捕まるだろうと思い携帯の通話を切った。すると背中越しに感じる程の強烈なα性の匂いにドクンと胸が高鳴った。
待て、そんな…だって、俺はただ善意の心でこの女の子を助けたんだと必死に口元を抑えた。違う、止めろ、俺はただこの子を助けたくて…なのに体や本能は抗えない。欲しい、今すぐにでも…俺だけの番にしたい。そう思って少女を見下ろした。ぶわりとα性の匂いが濃くなる、視線を合わせては駄目だった。体が歓喜する。中が濡れる。顔が蕩けるように火照り、甘い吐息を漏らした。駄目だ、違う、違う、違う、違う、違うっっ!
「お兄ちゃん…ありがとう」
「ぅ、うん…もう、大丈夫だからねっ」
女の子はΩ性にきっといつも怖い想いをしているのだろう。泣きそうに感謝されてキュウキュウと胸が痛い。良かったと思う反面、俺が今度彼女を傷付けてしまいそうで怖くなる…そんな俺は彼女から後ずさりしてしまった。傷付いた顔をして、手を伸ばそうとした彼女を申し訳なく思いながら早口で伝えた。
「も、すぐ…警察の人、来るだろぅ、から…」
「お兄ちゃーー…」
「ご、ごめんっそれじゃぁ…」
これ以上は駄目だ、絶対に…そう謝ることしか出来なくて走り去る。我慢するように必死に手の甲を強く強く噛んだ。