第14章 運命の番(過去編)1.5
なにかもっと堅苦しいデートをイメージしていたが、春枝が連れて来た場所は水族館だった。意外にも貸し切りじゃないことに驚く、俺の視線に気が付いて察したのか軽く頬をかき口を開く。
「私…恋人や家族の姿を遠くから見るのが好きなんですよね。楽しみにしている皆さんをキャンセルさせるなんて可哀想なことをしたくはありません…」
「そうか…」
「それにーー…いえ、なんでもありません。チケットは買ってありますので行きましょうか?」
「あ、あぁ…」
俺は春枝の寂しげな顔を見逃さなかった、ただ深くは聞くことは出来なかった。余りにも寂しげに目を細めており、恋焦がれるように赤の他人の家族を見つめていたからだ。萩原もなんとなく気付いて俺へと視線を送って来る。しかしその目はまだ聞かない方がいいといった表情だった。
「お兄さん方、行きますよ?」
少し遠くから、俺達を呼ぶ春枝がいる。チケットを手に持ち、軽く手を振り手招きする彼女の姿は誰がどう見ても可愛いという言葉に尽きた。α性だから周りは気圧されるように憧れる目で見つめている。そんな彼女の恋人であり、番候補だから優越感さえ感じつつ春枝の背中を追った。
ーーー。
「可愛いですね?」
「あぁ、本当にな」
「うん、そうだね…」
「いや、あの…魚を見て欲しいんですが」
目をキラキラさせて、笑みを零す春枝が可愛くて振り返った彼女の瞳に俺達が映る。魚よりも、春枝のコロコロ変わる表情が年相応で安心もした。飽きない可愛らしさに自然とこちらも笑みが溢れる。春枝はどこか大人びている印象がある、それは俺達に接しているから、そういう態度をとってしまうのかはまだ分からない。だがもしも年齢が同じだった場合は、もっと自然に頼ってくれて壁のある穏やかな笑みではなく楽しげに笑ってくれるのだろうかと考えてしまった。
「春枝、楽しいか?」
「勿論ですよ?それに陣平さんや研二さんが一緒ならどこだって私は楽しいです」
「っ!そ、そうか…ありがとうな」
「春枝ちゃんっ!俺も春枝ちゃんとならどこだって楽しいよ!沢山色んな所で遊ぼうね!」
「ふふ…今から楽しみです!」
まだデートは始まったばかりだというのに、本当に楽しみだというような満面の笑みで見上げて来るから抱き締めたくなった。