第14章 運命の番(過去編)1.5
萩原side。
仕事に行く前に寄って行ったのは、春枝ちゃんがいると疑わなかったいつものマンションだ。なのに家具は勿論、何もかもがもぬけの殻になっていた。綺麗に片付けられており、すっきりとしたフローリングがやけに広々として寒々しくも感じた。逃げた…と一瞬考えるも直ぐに頭を切り替える。いや、それは絶対にないと。だって…将来幸せにしてくれると約束したからだ。それじゃあ…誘拐とか?いや…荷物が綺麗になくなっていることを考えると引越ししたということが一番妥当なところか。
連絡が取れない。携帯から機械音だけが聞こえる。今忙しいのかも知れない…平日だから元々学校だろうし。そう気持ちを落ち着かせる。
それより先ずは松田に聞いたほうがいいか…多分アイツも知らないとは思うが。俺が知らなくて松田が知っていたら、それはそれでショックだけどもーー…番候補とか言われた時は怒りに任せてぐしゃりと缶コーヒーを握り潰してしまったが、春枝ちゃんの美人さやαの惹き付ける魅力を考えれば惚れるのは当たり前だよな。流石は俺の春枝ちゃん…可愛いかよ。
ーーー。
「春枝ちゃんの家がもぬけの殻になってたんだけど…松田、なにか知らない?」
「はっ?なんだ、それ…そんなの聞いているわけねぇだろ。まさか、逃げたのか…俺達を捨てて?」
「松田、思ってもないこというなよ…春枝ちゃんはそんな無責任な性格じゃないの、お前も良く知ってるだろう?」
「あぁ…そうだな、悪い」
目を見合わせて、やはりここは探しに行ったほうが早いと俺達は頷いた。早めに仕事を終わらせるつもりで動く。定時に帰れるように書類を見下ろして集中した。上司からはいつもこれくらい頑張ってくれたらいいのに…といった生暖かい視線を感じられたが、俺と松田は気にせず仕事に取り掛かった。
ーーー。
松田の車に乗り込み、春枝ちゃんの姿を探す。米花町は杯戸町からは出ていないだろう。彼女は帝丹高校の優等生だ、小さい頃から頭の良いお兄さんに勉強を見て貰っていたからどんな教科も出来ると懐かしそうに過去を教えて貰った。しかしそのお兄さんと少し前から連絡が取れなくなった…そう少し寂しそうに目を伏せた春枝ちゃんの何気ない言葉に嫉妬してしまったのは仕方ないだろう。だからこそ俺達は彼女を心から幸せにしたいと思う。