第14章 運命の番(過去編)1.5
お礼をしてぺこりと頭を下げた彼女に、愛おしさや憎らしさが募る。漸く俺を見てくれた、このまま俺だけを見ていればいいのに…そのことが頭から離れない。目を合わせればふわりと香るのはαの匂い…俺が欲して堪らなかったもの。体が熱を上げる…溢れ出るのはβではなくΩの匂いだ。目の前の少女は目を見開いて、じわじわと頬を赤く染めた。
「なぁ…あんた、責任とれよ」
「えっ…」
「あんたに会ってからずっと頭から離れなくなった…その匂いがする萩原にもイライラするし、思い出すたびに身体が疼きやがる。項を差し出したくなって番になりたいとも思っちまう…どうしてくれるんだ?なぁ?」
「ひぇっ…」
混乱するように目を泳がせて、どうしようといった悲しげな表情へと変化する。どうして俺がΩになったのか、彼女も理解出来たようだった。それなら話しが早いと身を乗り出す勢いで迫った。
「俺をお前の番にしろ…萩原よりも俺を選べよ」
「う、いや、それは…」
壁側へと追い込み、逃げられないよう手首を引っ張りそっと抱き締める。胸元にぽふりと指通りのいい彼女の髪が当たり、体に絡み付くのはこのαの匂いだ。発情抑制剤を飲んでいるとはいえ、濃い彼女の匂いに頭の中がクラクラして来た。それにしても俺から逃げようと身をよじる彼女は、先程よりも顔を真っ赤にしてあわあわしている。それがなんとも可愛らしくて耳元へ声を掛けた。
「照れてんのか…可愛い」
「えっ、ぁ…待って下さっ…」
横髪を耳にかけて、彼女の耳たぶを甘噛みする。するとさっきよりもαの匂いがキツくなったように思えて…体が快感に痺れる。俺が吐息を漏らせば、耳元に当たりビクリと肩を浮かせていた。
「で、どうなんだ?」
「番は、無理です…私自身が責任をとれません」
「未成年だからか」
「未成年だから、という理由も勿論ありますが…なにより私と番になり、私になにかがあった時傷付くのはΩです。だから私は自分の身勝手な行動で相手を傷付けたくはない」
「それじゃあ、萩原を裏切るのか」
「そんなことっ!」
必死に言葉を紡ごうと俺の視線を合わせたが、唇を震わせて黙ってしまった。そしてまた表情が暗くなる。少しばかり意地悪な質問をしてしまったが、俺は彼女の番になれるならなんだってするつもりだった。傷付けたいわけじゃないし、悲しませたいわけでもない。だが逃げられるなら囲ってしまえばいい。