第8章 運命の番(過去編)3
しかし父に会うのは別であるとため息をつく私に対して、冷静沈着な爺やの声は落ち着いており「もしも春枝お嬢様がお会いなさらない場合、旦那様はご自分から貴女様に会いにいくと仰られておられました」と言われた。
最悪であり詰んだと思った。この高層ビルへ来られるほうが後々面倒だわと、今頃社長室にいるであろう威厳のある父を思い出す。私のことに対してはかなり甘々であるのが玉に瑕なのだが、悪い人じゃないとも思う。
「うぅーん…はぁ、分かりましたよ。今度の土曜日に会いにいくと伝えて下さい」
「かしこまりました、後旦那様からの言伝ですが…」
「えぇー…まだあるんですか?」
「番はいつ会わせてくれるのかと」
「そこかー…」
「そして…これが大変重要な用件ですが、もしも全て嘘偽りで本当は番がいないのであれば、見合いを行うとも仰られておりますが」
「ちょっと待て、それは巫山戯んな。勝手なことをしたら縁を切るぞと脅しておいて下さい」
「かしこまりました。ですが見合いはもう既に執り行う手続きになられておりますので…顔合わせだけでもお願い出来ないでしょうかとの話なのですが」
「まさか、仕事ですか…?」
私は察し地を這うような声で尋ねると、爺やは重々しく「はい」と返事を返していた。やはり父は相変わらず仕事人間だと鼻で笑った。見合いは表向きで、相手も私ではなく父に用事があるようだ。普段では会えることのない相手であり、商談などの話でこういう行為を行い、私は引っ張り出されることが多少あった。こればかりは仕方ないと頭を軽くかきながら「分かりました、それって一体いつです?」と尋ねる。
「……明日の昼間にでもと」
「はっ、はぁああーっ!?」
なにそれ、急過ぎるわ!私明日普通に仕事ですけど!?えっ?休めと?有給使えと?そういうことですか、ダディよ。いうならもっと早く言ってくれ、そう項垂れる私は直ぐに頭を切り替えて気を取り直す。
「先ず見合いは洋室?それとも和室?それによってはドレスか着物かを明日までに選んでおいて欲しいかな、メイクアーティストを明日この部屋に呼んでくれると助かります。職場には今から連絡するとしてーー…」
あぁ…忙しい。申し訳ないが番の皆さんには帰って貰わないといけないなとドアのほうを見る。すると雪崩込むように寝室へ入って来た四人がショックを受けていた、修羅場二回目突入である。