第7章 運命の番(過去編)2
私はお兄さんに避けられていた。分かっていたのだ。零さんに会うことにほのかに香るお兄さんの匂いに、彼も分かっていたから敢えて私に会わなかったのだろう。地下駐車場でというのはムードもへったくれもないなと薄暗い部屋で口付けを落とした。
ーーー。
部屋へと招き入れて、先ずは零さんに連絡をするように促す。多分私の連絡先は既にもうないだろうからだ、ついでに私が今住んでいる家も教えて訪ねて来て貰おうとも思った。連絡をいれるお兄さん…公安にいるから偽名を教えて貰い、緋色光と名乗っているようだ。因みに本名は緑川景光さんというらしい…二人きりの時は本名で呼ばせて貰おう、そう伝えれば嬉しそうにはにかんでいた。その景光さんから携帯を奪い取るように耳へ当てると、大声で怒鳴る零さんの声に耳がキーン!となった。軽く喉を鳴らし、声のトーンを何段階か下げて見る。
「もしもし安室透さん…ですか?」
「っ、貴方…一体誰ですか。どうして僕の名を…いや、先ずはスコッチは無事なんでしょうね!」
「スコッチ…あぁ。緋色光さんのことですか?どうでしょうねぇ…どういう状況なのかを知りたいのでしたら東都タワーから直ぐのセキュリティが万全な高層ビルの最上階の奥の部屋へお越し下さい。コンシェルジュには事前に連絡しておきますので…それではお待ちしております」
「な、あ…おいっ!」
ブチッと携帯を切った私は投げ捨てるように景光さんへ渡した。空中でキャッチした景光さんは苦笑いを浮かべており口を開く。
「春枝…その…やっぱりゼロに対して怒ってるだろ」
「…そうですね、だって本当なら零さんは私の初めての番ですから。まさか連絡先も住んでいた家も全て途絶えてしまうなんて…考えられませんでした」
「それはゼロにも事情が…」
「安室透、偽名を使うということと…景光さんを酷く心配する雰囲気を見ても彼もまた公安なのも想像がつきます。確か…NOCバレというんでしたっけ?」
前世の記憶を取り戻してありがたいとも思う。結果的にスコッチこと、緑川景光さんを助けることが出来たのだから…今度は自分の携帯からコンシェルジュへ連絡を入れる。私の客人が訪ねて来るから通しても構わないと言いその彼の名前は「安室透」と言うことを指示した。
「警察に連絡を入れるのは様子を見た方が宜しいかと…」
「だが…」
「先ずは零さんが来てからにしましょう」